2009年04月24日

酷い記事 子供ゲーマーのおよそ10人に1人が「ゲーム中毒」

子供ゲーマーのおよそ10人に1人が「ゲーム中毒」 米大学調査(ITmedia)

基となった論文はこちら

まず、これが良くあるゲーム規制派の低レベルなプロパガンダとは違うことに、注意する必要があります。

論文によると、調査は専門機関(Harris Polls)に委託され、ランダムサンプリングを用いて1,178人にインタビューしています。年齢や性別、居住地域による偏りもないようです。

また、third person effect(人間は、マスメディアの報道に沿わない「正しい」「少数」意見を持つ場合、積極的に表明したがる、と言う仮説。沈黙の螺旋という逆方向の仮説もある。ネット・ブログでは前者、リアルの社会では後者が良く見られるのは、誰もが知るところ)を取り除くためにメディアに関する質問項目を入れるなど、きちんとした工夫も見られます。

ちなみに、第三者効果は見られなかったと書かれています。つまり、マスメディアが言うのと違ってゲームで中毒になどならない、と言っているかどうかと、自分が質問項目で中毒的症状に該当する選択肢を選ぶかは、相関しないとのこと。

ですから、この研究自体は、非常に興味深い内容の真っ当なものです。

問題は、何故かITMEDIAが、

>同氏は、多くの子供が病的なゲームプレイのパターンを示したことに驚いたと述べている

と言う、露骨なイメージ誘導で記事を終えていることでしょう。

実際の論文は、以下のような注意書きがされています。

>The primary limitation of this study is its correlational nature. It does not provide evidence for the possible causal relations among the variables studied. It is certainly possible that pathological gaming causes poor school performance, and so forth, but it is equally likely that children who have trouble at school seek to play games to experience feelings of mastery, or that attention problems cause both poor school performance and an attraction to games. Furthermore, the data on pathological gaming should be considered to be exploratory, as no standard definition of pathological gaming exists, and further research may determine that there are better ways to define it. A related limitation is the nature of the response scale; for example, it is unclear whether all youth would interpret the difference between "yes" and "sometimes" the same way. However, the fact that the relations between pathological status and the other variables were similar regardless of how we defined "sometimes" suggests that this limitation may not be a major problem. Nonetheless, in a clinical setting, this approach would serve only as a screen for a detailed clinical interview in which the actual severity of the problems could be assessed. Furthermore, if these questions were to be used in a clinical setting, they should be time bounded the same way that substance-use items are (e.g., "In the past year, how much have you . . . ?").



つまり、因果関係は全く不明で、家庭や諸々の問題がゲームに子どもを追いやるのか、ゲームが問題を引き起こすのかは解らない、と言う事です。研究者として当たり前の注記ですね。

問題が「ゲーム」にあるのかどうかは、対照群として本やインターネットやテレビの利用に関して、同様の調査を行えば良いでしょう。恐らく、彼らが真っ当に研究を進めるなら、この辺を次の対象に選ぶはずです。

とにかく、これについては、脊髄反射でろくでもない研究、などと叩くのは間違いです。研究内容自体は真っ当ですから。
ゲーマーが落ち着いて見るべき部分は、研究者自身が認めるとおり、(と言うか、この論文はもともとそう言う趣旨)単純なゲーム害悪論には繋げられない、という事実です。

と言うか、マスメディアはこう言う解説部分こそがキモなのですから、せめて自分でリンクを貼った元論文くらい参照してから記事を書いて欲しいです。

例えば、自分たちで書いた

>また病的ゲーマーはそうでない子供と比べて、注意欠陥・多動性障害と診断される可能性が2倍高かったとアイオワ州立大学の心理学助教授ダグラス・ジェンティーレ氏は報告している。

部分で既に、単純にゲームが害悪というのは無理がある、と言うことが解るはずなのですが。ADHDは先天性の病気で、間違ってもゲームをやって居たらなる、と言うようなものではないわけですから。

それと、

> 研究によると、ゲームをプレイする子供の8.5%が「病的ゲーマー」で、ビデオゲームにより家族、社会、学校、心理面でダメージを引き起こしているという。

と言う部分は、幾ら何でも誤読が過ぎます。この部分は、元の論文では

>In a national sample of youth ages 8 to 18, 8.5% of video-game players exhibited pathological patterns of play as defined by exhibiting at least 6 out of 11 symptoms of damage to family, social, school, or psychological functioning.

こうです。
従って、正しく記事にするとしたら、このようになるでしょう。

> 研究では、ゲームをプレイする子どもの8.5%が、家庭・社会・学校・心理機能にダメージを与える11の症状の内、6以上を呈していた。

つまり、記事では因果関係が逆転しているのです。
「病的ゲーマー」だからダメージを与えるのではなく、ダメージを与えるのを「病的ゲーマー」として定義しているのです。まるで、ゲーマーだから家庭や社会が学校や自分の心を壊す、と言わんばかりの文章は、誤訳でなければ悪質な曲解です。

そもそも、「病的ゲーマー」というのは、"pathological"を勝手に意訳したものでしょう。しかしこれは、「病理学的」つまり、「○○を病気と定義する」と言う意味で使われる言葉です。

この記事に、いかに酷いバイアスがかけられているか、おわかりいただけたでしょうか?

こう言うのを見るに付け、知識と情報は力なのだな、との感を強くします。
もし読者に学生の人がいれば、こう言う馬鹿言説にだまされないためにも、英語くらいは真面目にやっておいた方が良いですよ。


追記:
GAMESPOTでは、この辺の注記をきちんと取り上げています。

米国のゲーマーの8%は中毒--NIMF調査

ただし、見てのとおり、子どもを対象にした調査にもかかわらず、「米国のゲーマー」と銘打っているのは、相当問題があるでしょう。
画竜点睛を欠いている感じです。


5/3追記
「米の若者は8.5%がゲーム中毒」との研究発表に、業界内外から疑問の声(gpara.com)

こう言う続報記事が出ています。
ただ、煽りにまみれたタイトル等とは裏腹に、かなり疑問が残ります。
まず「疑問の声」の内容ですが、これはどれも、新しい結果を出した研究について、当然出てくる内容です。要するに、サンプルを増やし、技法をさらに洗練させ、さらなる追試を、と言うものです。

はじめから完璧な実験結果など存在せず、追試され、技法が改良されて始めて確定する。それは、当然すぎる科学のいとなみです。

そして、また例によって締めくくりが……

>Walsh氏は「賛否両論あるかもしれないが、研究は新たな討論の機会を提供したことは確か。1つの研究例だけではゲームの中毒性を決定づけられない。今後もさらなる研究が必要だ」と語っている。さすがに、あまり強気な発言はできなかったようだ。

上で引用しているとおり、そもそも彼は「強気な発言」などしていません。
研究で未だ不完全な部分、不確定な部分はきちんと論文に記載されており、認めるも何も最初から追試が必要だと自分で言っているのです。

こう言う「欠点を認めた」とはやし立てるやり方は、ホロコースト絡みで「今後研究を深めるべき」と言っている部分があることをさして「まだ事実は確定していない」とほざき出す、否定論者と基本的に同パターンになってしまっています。

ゲーム批判については非科学的・非論理的などうしようもない言説が罷り通っていますが、対抗する側まで同レベルの論理性に落ちてしまっては、元も子もないと思うのですが。


さらに追記
関係する記事についてメールを送ったら、二次元至上主義!さんに、この記事へのリンクを張っていただけました。
ゲーム批判報道については、毎回かなりまとまったリンク集や解説を掲載しているところなので、こう言うことに興味のある方は是非どうぞ。


なお、当BLOGの表現規制関連エントリーはこちら

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