2009年04月29日

若桑みどり「イメージを読む」 著作権の相続は不合理が色々

故・若桑みどり先生の「イメージを読む (ちくま学芸文庫)」を読んでいました。

この本は、「薔薇のイコノロジー」と並んで、著書の中ではとても売れた、と先生が生前言っていたのを思い出します。

確かに、文庫版あとがきにもあるとおり今でも内容は古くなっておらず、非常に楽しく読むことができました。

絵画に描かれるものには、その時代の様々な社会背景を反映するものであって、歴史学の素養なしに「見る」事は出来ないと言うこと。
そして、前近代において美術は、まず圧倒的に思想を表現し広めるためのツールであって、間違っても社会から遊離した「純粋」な芸術などと言う物は存在しないと言う事。
そう言った、「美術史」に関する入門を、有名な数人の画家と絵を題材に講義していく内容です。

一番面白いのは、やはりモナリザに関する色々な「謎」の提示でしょうか。ヨーロッパを理解し、ダ・ヴィンチを理解し、キリスト教を理解してなお、完全にピースは埋まらない。それでも、科学と同じくもっとも有力な仮説を求めて、様々な解釈を同じ土俵の上で戦わせることができる。
これこそ、学問の面白さでしょう。

演習室で、美術やジェンダーと宗教・思想について熱弁をふるっていた先生の声が聞こえてくるようで、懐かしさもひとしおでした。71歳は、余りに早すぎる死と言えます。
キリスト教を理解しないと共産主義の意味と限界は解らない、などと言う話は、結局著書では書かれることが無かったわけで、残念です。

さて、問題は、先生が死んだため、この本の著作権は当然相続に供せられたと言う事です。

恐らく、この死亡記事にあるように、長男(子どもが居たのですね)が相続人になるのでしょう。

そうなると、完全な素人が専門的な著作の著作権を持ち、出版の可否等を決めていくことになります。
そもそも、確信的無神論者だった先生をカトリックの葬式で送っているあたり、かなり首をかしげるのですが。

また、今回は子どもですからまだマシかも知れませんが、子どもが居なければ兄に引き継がれた可能性もあるわけです。事前に予想しての死でなかったことは間違いありませんから。

先生は、美術研究の道に進みたいと言った時に、兄から「女に学問なんかさせて何の得がある」と言われて援助を拒否されたことを、ずっと恨んでいました。(結局先生は、イタリア政府の公費留学生として、ローマ大学で勉強する道を自らつかみ取ります)恐らく、ジェンダー史研究の熱意には、これが影響を与えていたでしょう。

そして、そんな軋轢があった人間でも「相続」という制度を経て、著作権という作品の生殺与奪権を握れてしまうわけですよね。

実は、私の祖父も昔編集に関わった本があるらしく、時たま印税だか著作権料だかが親に送られてきます。ですが、例えば改訂等の許可が欲しいなどと言われても、専門書では判断などできません。結局出版社に一任となり、権利は、有名無実な上に非効率的な事になっています。

こう言うのを見ていると、報酬請求権は財産権なので当然としても、人格権に近い諸々の権利は、相続の対象にしてはマズイと思わざるを得ません。

無関係の多数に好き勝手やられるのと、関係がないわけではない誰かに好き勝手にされる事。比較するならば、情報が後世に残り、様々な「利用」が行われる分、前者が圧倒的にマシでしょう。

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タグ :著作権

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