2009年05月11日

原因はジャンルかレーベルか 『白銀の民』 感想

白銀の民 (講談社X文庫―ホワイトハート)

例によって、SFマガジンのリーダーズダイジェスト経由です。

リーダーズダイジェストを基準に新刊を選ぶと、ジャンルが偏るかわりにレーベルが偏らないのが面白いところ。本来なら、講談社X文庫は手に取ることもなかったでしょうから。

さて、この作品は、いわゆる中世ヨーロッパ風世界を舞台にしたファンタジー。その世界で、「白銀の民」と呼ばれる超能力を持つ人種を軸に据えて、船乗りだった主人公の復讐劇を描きます。

まず、物語の構成はきちんと練られており、ラノベとしては及第点でしょう。人物も、「いい人」を強調しすぎて薄くなってしまっているものの、ちゃんと感情移入できるようになっています。

ですが、それ以外が色々と問題です。

まず、文章が拙いこと。決して「ひどい」とまでは行かないのですが、言葉の選択が幼かったり誤っていたりで気になります。

例えば、

>モリガンを相手に戦った者のほとんどは、二・三回剣を交えるだけで、あっという間に負けてしまう。

と言うような文章です。とても、交わされる剣戟の音が伝わるような緊迫した描写は望めません。

他にも、新進気鋭の軍組織・海兵隊の隊員達が突入を待つシーンで、余りに通俗かつ現代的な「激務」の描写(「私と仕事のどっちが大事なの!?」)が挟まれたりするのも、ゲンナリします。

ただ、言葉の問題については、はっきり言って編集の問題でしょう。
例えば、「白銀の民は根絶した」のような文章が繰り返し出てくる所を見ると、講談社のチェック能力に疑問が生じます。
「根絶」は「根絶やし」の意味ですから、「白銀の民は根絶された・させられた」でなくてはいけません。新人賞作品ですから、こう言ったケアレスミスが残っているのは当然、それを仕上げるのが編集の仕事でしょうに。

そして、恐らく一番の問題は世界の描写。
この言い方は好きではないのですが、まるでゲームのような薄っぺらさです。

勿論、「中世ヨーロッパ風世界」は、大体においておおむねルネサンス~産業革命前と言う「看板に偽りのある」描写になります。

しかし、この作品の場合、そんなレベルではすまない問題が多すぎます。

世界の人口をさらりと「数十億人」と書いてしまったり、登場人物が臆面もなく「遺伝子」、あまつさえ「優性」「劣性」などと口にしてしまう滅茶苦茶さ!
登場人物を指して「フェミニスト」などと言う単語が出てきた時には、脱力して突っ伏したくなりました。

ちなみに、和製英語の「女性に甘い男性」の方の意味ですが、勿論誤用が問題なのではありません。(あの世界観にフェミニストがいるとしたら、超急進派の革命家に他ならないでしょうし)そんな現代的な単語を放り込まれては、とても世界に浸ることはできません。

名作・タクティクスオウガも、肝心なところでランスロット・タルタロスが「癌細胞」などと口走ってシーンをぶち壊していましたが、あの比ではありません。

こうしてみると、ライトノベルの先駆けである田中芳樹が、「世界を設定すると言うことは、宗教・習慣からトイレの形まで決めること」「設定でジャガイモがあるかないかを変えるだけで、人口や経済規模が全く違ってくる」などと書いていた事が、如何にしっかりしていたか解ってきます。残念ながら、過去形ですが……

と言うわけで、その他の面についてはそこそこ良いのですが、「ライトノベルとしても」アラが多すぎてきつい感じです。

やっぱり、出版点数絞って、一冊のクオリティを上げていきましょうよ。
タクシー業界の二の舞ですよ。点数(台数)増やしたって、管理コストが増えるだけじゃないですか。読者が使える時間は変わらないし、クオリティが下がったら他の娯楽に逃げるだけですよ。



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