2009年05月04日

「グラン・トリノ」感想 筋の通った傑作

グラン・トリノ (クリント・イーストウッド 監督・主演)
グラン・トリノ (クリント・イーストウッド 監督・主演)

ゴールデンウィークなので、語源に忠実に映画を見に行ってきました。
一瞬気の迷いで「ひぐらしのなく頃に」の二作目に目が行きましたが、さすがに回避。
まあ、札幌のシネコンで見たら完全貸し切り状態だった一作目を思い出せば、当然でしょう。

と言うわけで、ここは正気に戻って「GRAN TRINO」です。

内容は、デトロイトがモデルの旧自動車企業城下町に住む、元自動車工の偏屈爺(クリント・イーストウッド)が、隣に引っ越してきたアジア人の家族と交流していく、と言うもの。
こう言うとお涙頂戴の良くあるアレですが、構成の巧みさとテーマの一貫性のお陰で、見事な名作に仕上がっています。

詳細は、以下。

まず序盤では、物語の前提条件が整理されます。

主人公は、他人種を蔑視し家族とは溝どころかクレパスがあり日本車を毛嫌いする、老白人(ポーランド系)。
しかし、かつて勤め上げた工場は閉鎖され、周囲の住人は有色人種ばかりとなり、妻には先立たれ、ほとんど何も残されていません。
一方で、隣のアジア人一家は、基本的に貧困で将来の希望は少なく、親戚のマフィアにつきまとわれています。しかも、唯一の男であるタオは、庭いじりが趣味の腰抜け。
かと言って、他に目を転じれば、町で幅をきかせるのはタチの悪いゴロツキ達。どうしようもないアメリカの縮図です。

中盤は、主人公とタオが向かい合い、お互いを補っていく「転」の部分。

特に、主人公がタオに仕事を紹介したり、「男らしい」しゃべり方を伝授する所は、ユーモア混じりで一番楽しいシーンでしょう。

そして、牙を剥いたマフィア(親戚達)の存在という、「解決すべき課題」に、どの様に対処するかを描く終盤。

クライマックスのシーンは、結末が明らかになった瞬間に、直前の何気ないシーンの意味が連鎖的に理解される、本当に良くできた構成になっています。

正直、アジア人に対する蔑視というか偏見じゃないかと思うシーンもあるのですが(クライマックスで主人公がマフィア達に投げかけるセリフなど)「偏見がゼロにならずとも、友情は結べる」と言う内容は明快で、気になりません。

上記のシーンにしても、その部分(従兄弟は欧米人的には兄弟と同レベル。なので、あれは単なるレイプ事件ではなく近親相姦という意味も持ち、悪役達の汚さがジャンプアップする)に関する慣習・認識の違いを説明されたら、きっと主人公は頭を掻いて悪態をつき、全く納得は出来なくても、以後触れないだけの心遣いを見せると思うのです。

それにしても、本当に良くできた映画でした。無駄なシーンも無駄な要素も見あたらず、全てが有るべき所に収まっています。

やはりこれは、イーストウッドのやりたいことを、やりたいことだけを撮ったためなのでしょう。
大体において、功成り名を遂げた人物が好き放題作品を作ると酷いことになる物ですが、彼は結構当たりが多いですよね。

一人の情熱を核に作ると、船頭多くして……のいわゆる”商業作品”とは、一線を画するという事でしょうか?
かわりに、お金はかかってないようで、準主役級もほとんどが新人。ですがこれは逆に、イメージが付かない、良い効果を出しています。
特に、主人公の言う「イタ公の床屋」の親父と、「神学校出たての27歳の童貞」の神父が、実に良い味を出してます。

また、存在としては一番大きい主人公の妻の描き方は、本当に上手かったです。

クライマックス近くで判明する主人公の習慣の意味や、ラストシーンでさりげなく告げられる意志の尊重。それに、神父の行動やタオにハッパをかける時に喋る素敵な言葉。
これだけ主人公や物語に大きな影響を及ぼしている人物なのに、一度も画面にまともな形で出て来ないのです。
回想も無し、写真も無し。

ただ、クライマックス近くで良く見ると、主人公が広げているアルバムが、奥さんとのツーショットで埋められた物だったりすると言う、本当に心憎い演出。
その後の展開と照らし合わせれば、如何に存在が大きかったかが想像できて、涙腺がゆるみます。

奥さんがカソリックであることも、きっと意味が有ると思うのですよ。

以下ネタバレなので反転。

主人公の取った最後の行動は、実質的には自殺です。
そして、カソリックは自殺を厳しく禁じ、葬儀を上げることすら許しません。
当然、天国にいるであろう妻には会えなくなる。
そう言ったためらいと共に、彼はアルバムをめくったのでは無いかと思うのです。

もっとも、あの彼の行動は、他人の罪を背負ったキリストに近いと見ることもできるのでしょうが。
キリスト教徒は、どちらの印象を強く受けるのでしょうか?人それぞれだとは思いますが、少し気になります。


以上ここまで。


とにかく、評判に違わぬ名作なので、是非とも見に行くことをお勧めまします。
まあ、このBLOG記事を見る人の大部分は、見終わった後の感想探しで流れ着く事になるのは、間違いないでしょうが……

これをノミネートすらしないなんて、本当にアカデミー賞は……
いや、オスカーを取った作品がどれも良作なのは間違いないのですが、まず対象になるかどうかの辺りで、ね。



なお、「グラン・トリノ」というのは、典型的な「アメ車」である1972年製ヴィンテージカー。
作品の象徴となるやたらと格好良い車なので、絶対シネマショップではミニカーを売っていると思ったのですが、影も形もありませんでした。

それどころか、置いてあるのがパンフだけというのは、やる気がなさ過ぎるのでは……

仕方ないのでネットでサーチしてみたのですが、そもそも出物がないみたいです。
これを機に再販して、タイアップで売る程度の欲目は、見せても良かったのではないかと思うのですが。

ちなみに、主人公が普段乗り回しているフォードのピックアップ(S・キングの小説に良く出てくるあれ)は、一応出物がありました。

赤ってのはどうかと思うんですが、塗れば問題ないかな?

Yatming 1948 Ford F-1 Pick Up
Yatming 1948 Ford F-1 Pick Up


後は、なんか名前を冠したバックも売られているみたいですが、これは何か関係あるんでしょうか?
GREGORY(グレゴリー) グラントリノ ブッシュドカーキ 16L 11310318408000

タグ :映画

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