2009年05月07日

「スラムドック$ミリオネア」感想 確かに出来は良いのだけれど

スラムドッグ$ミリオネア
スラムドッグ$ミリオネア

アカデミー賞は、別に作品の出来で選ばれるわけでない、と言うのは別に前田有一に言われるまでもなく誰でも知っていることなわけです。

しかし、「アカデミー賞ノミネート」だの「作品賞受賞」だのに観客が期待するのは、ブランドに見合った面白さ。ですから、「もっと面白い作品があるのに」という批判は、常に投げかけるべきでしょう。

と言うわけで、今年のメイン受賞作である「スラムドックミリオネア」です。

見終わった時の感想は、「グラン・トリノの後でなければ、もっと楽しめたはずなのに」でした。

確かに、映画としての出来は良いです。インドの根深い社会問題や成長のひずみ、それと対比される主人公の純愛、そして外連味の聞いたカメラワークの数々。
決して、つまらない映画ではありません。

しかし、テーマからシナリオまで一本筋を通して見事な完成度を見せていたグラン・トリノに比べ、あまりにも話がとっちらかってしまっています。

一言で言うと「各パーツがかみ合っていない」のです。

具体的に見ていきましょう。

なお以下は、基本的に見終わった人を対象としたネタバレ全開のものです。
この前のグラン・トリノの感想と違って、ネタバレ防止をしていないのでご注意を。

まず、インドの社会問題。
ヒンドゥーとムスリムの対立、行政の腐敗、マフィアの蔓延、教育の不足、貧富の差……
様々な相が提示されるのですが、本当にただ提示されるだけ。最終的に脳天気なハッピーエンドに帰結する以上、後には何も残りません。

特に、物語における最大の障壁が、貧困でも社会問題でもなく、一人のマフィアの存在に集約されてしまうのが問題でしょう。話が安っぽくなるだけでなく、折角描写した問題が埋め殺されてしまいます。

そして、これと関連するのですが、主人公がミリオネアに出る動機がきちんと作られていません。
言い換えれば、「ミリオネアで勝ち進んだら、どう問題が解決するのか」が不分明です。

結局、ガジェットとしてクイズ番組を使っているだけで、シナリオとリンクしないのです。
物語としての一貫性を保持するなら、主人公が最終問題を間違え、金は手に入らなかったがLatikaを手に入れて幕とするしかなかったでしょう。
ミリオネアになることは、彼の行動原理である純愛に、特に資することはないのですから。

特に、ラストの展開はどうしたものでしょう?主人公に、最終問題に挑戦する理由はありましたか?倍率2倍の賭をする理由など、どこにもないはずなのですが。

また、クイズ番組に勝ち残れた理由が相当陳腐です。
確かに、社会の問題によって知るはずのない情報を知ることになった、と言うテーマらしき物は見えます。

しかし、それは結局、「生活の中で偶然知ったトリビアが、偶然クイズに出題された」という事でしかありません。

そこに必然性はなく、ご都合主義的な偶然の連鎖があるだけです。
勿論、偶然をベースに物語を組み立てるのは悪くありませんが、勝ち残るに値する「何か」がない限り、途中でしらけてしまいます。

主人公はかなり頭がよいようなので(仕事中の描写や一々詳細な記憶など)、そこを強調して、観客が納得できるようにすれば良かったと思うのですが。

また、キーキャラクターである兄の描写は本当に酷く、結局宗教的な(敬虔な描写などそれまで皆無だったのに)改心だけで土壇場に味方に付く安直ぶり。

他、警部や司会者と言った脇を固めるキャラクター達も、心情描写が不足しすぎて薄いか心が追えないかの二択。


勿論、以上の問題は、お気楽な娯楽作品であることを考えれば過大な要求かも知れません。しかし、アカデミー賞で作品賞を始め八冠と言われたら、見る方の期待度は当然上がるわけで……

総じて、期待して見に行くほどの作品ではありませんでした。

あ、エンディングのダンスで評価は一段階上がりましたが。(笑)
やっぱり、インド映画には、あれがないとダメですよね!


それにしても、グラン・トリノよりも公開館数が遙かに少ない現状を見ると、日本の映画配給会社は、案外きちんと作品を評価しているみたいですね。


追記:
なんか、AMAZONのレビューによると、原作小説(↓)はきちんとしたシナリオラインの作品のようですね。読んで見るべきなのかなあ。

ぼくと1ルピーの神様 (ランダムハウス講談社文庫)
ぼくと1ルピーの神様 (ランダムハウス講談社文庫)


タグ :映画

同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事画像
「HELLSING X 上映イベント」に行って来ました
アニメ PSYCHO-PASS #06 「狂王子の帰還」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第6話感想
アニメ PSYCHO-PASS #05 「誰も知らないあなたの顔」 感想
アニメ PSYCHO-PASS #04 「誰も知らないあなたの仮面」 感想
アニメ版「リトルバスターズ!」 第5話感想
同じカテゴリー(アニメ・映像系)の記事
 意志決定の機会を与えられない物語『この世界の片隅に』 感想 (2016-12-07 00:00)
 「作家性」とは歪さと見つけたり/『君の名は。』感想 (2016-09-08 00:00)
 面白いのが一番!『ゴーストバスターズ』リメイク版 感想 (2016-09-02 01:00)
 素晴らしい、そして欠点だらけの怪作 『シン・ゴジラ』感想 (2016-08-04 00:00)
 これはダメな映画では? 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』感想 (2015-07-10 00:00)
 酷いなこりゃ 映画版Steins;Gate 『負荷領域のデジャブ』 感想 (2013-05-02 00:00)

この記事へのコメント
お邪魔します。
レビューを興味深く拝見致しました。

「クイズ番組に勝ち残れた理由が相当陳腐です。 ~ 改心だけで土壇場に味方に付く安直ぶり。」
には 大いに同感いたしました。

ボクも今作のレビューをアップしていますのでTBをさせて下さいませ。
Posted by マーク・レスター at 2010年06月06日 13:45
マーク・レスターさん、はじめまして。
インドらしいべらぼうな活力とか、テンポの良い展開とか、決して悪い映画ではないんですが、超難問に答えられるような、どんな秘密が!?みたいな煽り方は詐欺ですよね。

SPAMでない限りトラックバックを弾くことはないので、いくらでもして下さい。
Posted by snow-windsnow-wind at 2010年06月06日 22:44
初めて私と同じ感想を持った方に出会えました。
何だか嬉しかったです。
有り難うございます。

この作品はチープなオタクアニメのように見えました。
人間の内面が描かれていないので。
Posted by 青 at 2010年10月30日 11:24
今更ですが。
今日なんとなく、手にとって初めて鑑賞しました。
最後の問題に挑戦したのは、少しでも長くテレビに映るためではないかと思いました。ミリオネアに出たのはお金のためじゃない、ラティカへのコンタクト。ラティカが見ているか見ていないかも分からない状況では1問でも多く答え続けるしかない。お金はどっちでもいいから、間違えたってかまわないってとこでしょう。
答えを全部たまたま知っている問題だったのは、D.運命 で解決。ハッピーでいいじゃないかと。
ただ、社会情勢を描きつつ結局マフィア…というのには激しく同意します。そこが残念ー。
Posted by ぽ at 2012年09月09日 07:06
いやいやいや 『運命』だったんだよ

ある『運命』の面白い物語を見た"だけ"で良いのでは?

ベースにしただけでもちろん社会問題なんか全く訴えていないですよ。
Posted by 今更ですが・・ at 2013年05月30日 01:44
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。