2009年06月16日

これはこれで良いのかもしれない 『ペンギン・サマー』 感想

ペンギン・サマー (一迅社文庫)
ペンギン・サマー (一迅社文庫)

ジュブナイルです。SFです。タイムファンタジーです!

と、私の好きな要素が端からぶち込まれている作品で、確かに面白いのですが、妙に引っかかる部分もある微妙な作品。作者は六塚光。

幼馴染(?)に不思議な裏山探検に誘われた男子高校生は、山の中で不思議な経験をする。しかし、彼にはその内容に心当たりがあって……
と言う、結構変則的な始まり方をするライトノベル。

その後、舞台となる町に残る伝承や、どこか間抜けな怪事件、日記やボイスレコーダーに残された記録などが散りばめられ、一つの大きな事件が浮かび上がってきます。

題名は、最近再刊されたエンジン・サマーへのオマージュでしょう。淡々とした情景描写や時を越えてつながる物語は、確かに一部通じるものがあります。

とにかく、全体の構成が非常に良く練られており、情報の提示の仕方や伏線の回収も手堅く行われて、とてもできの良い一冊です。

ところが、妙な所で「ライトノベル」らしさを出そうとしたのか、悪役に当たるキャラクターの描き方や、各シナリオパートの交錯に今一乗り切れない「引っかかり」が生じます。
主人公やヒロインの造型で、ライトノベル的なお約束を外そうとしているのに(特に、ヒロインがラノベとしては異例の行為をしていますが、伏線になっているのは上手いです)そこで落とすのか?と言いたくなります。

ペンギンの設定や口調は、良い意味でライトノベル的な軽妙さが活きているのですが、物語の根幹を担う悪役達がアレでは、やや肩すかしかと。

他にも、空間に関するテクノロジーと時間に関するテクノロジーの設定など、上手くリンクさせる事ができたはず。また、大きな物語に回収し切れていない埋蔵金探索者のパートも、悪役達とリンクさせることで整理できたはずです。

後は、文章が重要な情報をすっ飛ばしている場合が多く、(冒頭の会話が行われている場所や、ヒロインとの関係など)妙に引っかかったのも確か。ただし、この辺は淡々とした描写を前面に出している副作用とも言えるので、欠点とまでは言えないかもしれませんが……


ただ、色々不満が出るのも基本的な作りがしっかりしていればこそです。最初に挙げた三つのフレーズにロマンを感じる人は、読んで見て損はないと思います。

一迅社文庫は、最近異業種から人を取り込んで、結構面白い作品を多く出していますよね。
ラノベに徹して落ち穂拾いを続けるMF文庫辺りとの対照性が、実に面白いです。できれば、生き残って行って欲しいレーベルですね。



ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫)
ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫)

↑私のお薦めはこれ。僕と、僕らの夏のシナリオライターが書いた、幼馴染物の変化球。幼馴染に怒りを覚えるか、それでも悲しく微笑む主人公に感情移入してしまうか…… 私は、涙が止まりませんでした。





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この記事へのコメント
「まどか」「少年兵」で検索して貴ブログにたどり着きました。
いつも楽しく読ませていただいています。
お薦めの「ハーフボイルド・ワンダーガール」を先日読了しました。非常に面白かったです。ありがとうございます。
幼なじみ=主人公を無条件に気に入っている女の子という定型を裏返したような鬱展開が素晴らしい。妊娠したヒロインの持つ二面性(主人公の前では幼なじみのかわいい女の子を演じていたんですね)のいやなリアルさもうまく描けていると思いました。
しかしこの経験で主人公も一つ成長し、新しい恋の予感?も生まれるという点ではビルドゥングスロマンの王道でもあるんですね。よくできた小説でした。
Posted by アロヲ at 2012年01月27日 21:23
>アロヲ さん
楽しんで頂けて何よりです。
個人的には、ひっくり返った幼なじみの設定(全部最初から打ち明けていれば、主人公はため息一つで協力したはずで、それを理解していない心の遠さとか)と共に、それでも仕方ないと全てを受け容れようとする主人公の愛に、泣きそうな共感を感じてしまいました。
アンチ幼なじみだNTRだと言われることが多いようですが、相手がどうあれ惚れたからには受け容れると言う意味で、本来の「幼なじみ萌え」ってこう言う意味じゃないのかと思ったり。

飛び道具的な幼なじみの設定に頼らず、シナリオ展開がきちんと王道なのは、本当に良くできてますよね。
作者さんは元々パソコンゲームのシナリオライターなので、あれが気に入ったなら手を出してみても良いかもしれません。どれもアクが強い上に、結構なプレイ時間を取られますが。
Posted by snow-windsnow-wind at 2012年01月29日 13:54
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