2009年06月18日

原作とは別物として 「ふたつのスピカ」 実写版 第1話 感想

ふたつのスピカ 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
ふたつのスピカ 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)


私が、現在進行中の作品でもっとも愛してやまない作品が、「ふたつのスピカ」です。

内容は、ほんの少しだけ未来、純国産有人ロケットの墜落事故で母を失った少女が、新設された宇宙学校で飛行士を目指すと言う、気恥ずかしくなるほどまっすぐな青春宇宙漫画。

宇宙を目指す主人公の成長を縦糸に、墜落事故に関わってその後様々な人生を歩んだ親世代の話を横糸にした、とても素晴らしい作品です。ブラッドベリかフィニィかと言った、あの手の優しい宇宙物。


ですが、これは実写です。ドラマです。NHKです。
予算的にはNHKである事は強みですが、かつて黒歴史と化したアニメ版を制作したのもここ。不安はぬぐえないわけです。

って言うか~、JAXA全面協力とか、露骨すぎて笑えますよね?
要するに、前に紹介したJAXAの有人宇宙技術開発計画の宣伝用ですもんね。
でも、良いんですか?これって、国産有人宇宙計画は、政治家の横やりで外国技術の導入を余儀なくされ、死亡事故起こして頓挫する、って言うストーリーなんですが……


とは言え、やっぱり期待している自分もいるわけで、久しぶりにテレビをリアルタイムにつけてみました。

以下詳細。

ええと、冒頭。獅子王号墜落の設定が変わったようで、時間は9年前。当然アスミはその時既に小学生で、府中野君も一緒にいるようです。まあ、これは墜落の記憶を残したいのだろう、と好意的に解釈。

ですが、場面転換して宇宙学校入学直後。アスミが、元気に喋って府中野君とじゃれ合っています。ええと、こんな子でしたっけ?基本的に内向的でないと、色々キャラが崩壊するのですが。でもまあ、あのパーソナリティーは実写ではキツいかもしれないので、最低限の改変として受けいれるべきか……

科学未来館の館内(ですよね?)を宇宙学校として使うのは、なかなか上手いと思いましたが。

と、この辺から心は「良かった探し」モードに入っています。

とりあえず、以下変更点列挙。

どう言うわけか、宇宙学校の試験は筆記と面接だけだったらしく、例の試験課題は出てきません。かわりに、第一話のクライマックスで、似たような課題が展開されます。まあ、これは普通の改変でしょう。時間軸が整理されて、話はスッキリします。勿論、本当に変える必要があるのかとか、こぼれ落ちるものがとか、言いたいことは色々あるのですが。

宇宙学校の教師で、原作にいない女性教官が加わっています。
恐らく、職員会議で理事にかみついていた先生(くたびれたオヤジさん。挫折した夢が燃え残った、熱意の残滓で動いている人)のかわりでしょう。これは、普通にアリなんじゃないかと。宣伝ドラマとしても、女性の存在を前面に出すのは上手い戦略でしょう。最後の課題採点時に、教師が男女2:2になっているのは、そう言う事だと思います。

まあ、あの先生はアスミの面接の時のシーンとかで良い役をやって居るのですが、女性に変わっても同じ事はできるでしょうし。

さて、次。
ライオンさんがいません。

……サラッと書きましたが、繰り返します。ライオンさんは、いません。
代わりに、アスミと昔から知り合いだったと言う、女性宇宙飛行士が出てきます。ここは、断腸の思いで認めざるを得ない所かもしれません。あの姿は漫画の中では非常に味がありますが、アニメでも相当アレな絵面であり、実写ではどうしようもありません。だから、この改変は、ギリギリ認めざるを得ない、と自分に言い聞かせつつ見ていました。

でもさあ、だったら、普通に宇宙服か訓練服着た姿で出せばいいと思うんですよ。
ライオンさんの存在は、挫折した宇宙開発、挫折した大人世代の象徴で、だからこそアスミを導く姿に意味がある訳じゃないですか。受け渡されていく思いは、この作品の根幹をなすテーマなわけです。それを、単なる宇宙を目指す青春物にしてしまっては、それこそ単なるJAXAの宣伝ドラマでしょう。

それと、ライオンさんがいないせいで、アスミの動機付けがグダグダになってるんですよ。
ひたむきな宇宙への視線が、単なる父親との幼い日の会話起源の安っぽい物になっています。「わたしには、宇宙飛行士をしていた幽霊の友だちがいます」と言う作文でいじめられることもありませんし、府中野との確執も単なる事故前からの幼馴染……
もう滅茶苦茶です。

でも、まだ、第一話だし……

ええと、気を取り直して。アスミの父トモロウは、宇宙機構に勤め続けているようです。しかも、アスミの入学には反対したまま。
……この辺から、さすがに頭の血管が膨張を開始します。
一巻の名シーン、アスミの宇宙学校受験を知って激怒するトモロウの姿は、当然ありません。宇宙機構の補償部門に回された後退職し、複雑な思いを抱え込んできた元技師、という魅力的な設定も、そこにはありません。古くさい由比ヶ浜の家が、余りにミスマッチです。

そして、主人公のアスミが、チビではありません。
……は?
いや、解りますよ。「体が小さい方が有利」というのは、必ずしも正しくありません。だから、JAXAから突っ込みが入ったんでしょう。ですが、彼女の体の小ささに起因するトラブルが、佐野先生との確執のクライマックスじゃないですか。どうするんですか?現状だと、マリカの方が遙かに細くて軽そうです。
ライオンさんがいない訳ですから「チビちゃん」という二人称も、要らないと言う事でしょうか?

ですが、小さな体で努力を続け、一番先頭を走り続ける彼女の姿は、作品の象徴でもあるわけです。訳のわからない性格変更と合わせて、NHKのご意見窓口にメールボムを送りたくなってきます。
大体、このおかげでケイとアスミの区別がつきません。画面で、と言うわけではなく、各人の特徴が曖昧になっている、と言う事です。これは純粋な改悪と言うべきで、本当に制作者の意図がわかりません。何がしたいんですか?

あと、マリカもあのままでは人格破綻者ですが、区別が付く分だけよしとしましょう。髪を解かれると、貧乳だと言うくらいしか特徴が無くなりそうですが……

一方、男性陣は光っています。府中野君も秋も外見の描き分けも特徴付けも原作準拠で良くできており、佐野先生の嫌みっぷりも健在。トモロウだけは上記のような酷いものですが、これからに期待と言うことにしておきましょう。

とりあえず、私の中では、まだ即切りにはしなくていい、と思っています。7回全部見きれるかどうかは甚だ疑問ですが、一応来週も見る事にしようかと。


とにかく、基本的には、

> 今回のドラマ化に関して、自分が描いてきたものと、脚本家の荒井さんや松居さん、俳優の皆さんの表現したいものが同じである必要はないと思っています。それでも、僕の知ってる小さなアスミも、ななみさんが演じてくれるアスミも、見上げた空は同じだと思うのです。
   ~公式ページの原作者の言葉~

と言う事なわけでしょうから。原作者って大変ですよね。基本的に、自分の作品をどうされようと、口出しできない立場ですから。著作権は、いくら強くしてもクリエイターを守りません。結局、その権利は全て全権委任方式の契約書で、資本に持って行かれるのですから。


ところで、エンディングの背景でNASAの宣伝フィルムが回ってるんですが、なんでロシアのも混ぜないのですかね?映像提供は、NASAとJAXAの2本立て。ガガーリンのエピソードを使うなんて事も、公式ページに書かれているので、ルノホート位出せばいいのに。

ところで、「ガガーリンが選ばれた決め手」って、「労働者らしい外見で、理想の共産主義者として受け答えできたから」だった気が。夢も希望もないですよね。前半にスポットを絞れば、行けるかもしれませんが。


あと、もう一つ。
スタッフロール最後のCGは、軌道上にある宇宙船の窓から、輝く地球と一緒に大量の星が見えている画面です。
どう見ても、あの地球光の強さでは、あんな風に星は見えないと思うのですが、私は間違ってますかね?瞬いてないだけマシかもしれませんが、そう言う所にこそ助言をした方が良いんじゃないでしょうか、JAXAさん。


追記:
プロデューサーは「『ふたつのスピカ』という世界観に、いかにリアリティをもたせるか」を重視したとか言ってるのですが、その結果がライオンさんの消滅とキャラクター全員別人化だというのなら、それは原作の選択が間違って居たという事でしょう。
これなら、ゼロからそう言う青春ドラマを作れば良かったのでは?

演技指導がなってないとか、それ以前の所もありますが。(セリフは言うに及ばず、アスミのあのフォームじゃ早く走れないとか、色々)



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