2009年08月16日

軌道エレベータ事始/ 『軌道エレベーター―宇宙へ架ける橋』感想

軌道エレベーター―宇宙へ架ける橋 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
軌道エレベーター―宇宙へ架ける橋 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


軌道エレベータは好きですか?

僕は、大好物です。


そりゃあもう、「天才幼女が膝の上に乗って、軌道エレベータの工学的解説をしてくれる場面がある」と言う話だけで、

うさみみデリバリーズ!!
うさみみデリバリーズ!!

を、即買いしたくらいに!

ちなみにそのシーンは、舞台設定と連動して凄く切なくて良いシーンでした。ただ、工学的に見て、プランに納得の行かない所があるのが不満でしたが。


と言うわけで、軌道エレベータの一般的な解説書としては非常にできが良く、好き者必携の書だったにも関わらず、絶版でプレミアだったこの本の紹介です。

元のハードカバーがこっちで、文庫になった今回のがこっち。価格が一気に1/10くらいまで落ちて、お手頃そのものに。



「軌道エレベータ」とは、ガンダム00にも出ていたあれ。文字通り、宇宙まで続くエレベータです。「軌道塔」と言われることもありますが、この方がイメージしやすいかな?

高度約36,000キロメートルの上空は、「静止衛星軌道」と言い、ここを回る人工衛星は遠心力と重力が釣り合って、地球上から止まって見えます。(地表と角速度が同じ=時間あたり、地球が回るのと同じ角度動くため)
ここから、もの凄く丈夫な糸を垂らしたとすると、その糸は宇宙と地上を結ぶことになります。これをよじ登るような機械を作ると、宇宙までとても安く行けるエレベータになるわけです。

ちなみに、そのままだと当然糸の重みで衛星が落ちてしまうので、反対側にも糸をのばし、バランスを取ります。この反対側の糸は、そのままカタパルトに使える優れものになるので、とても重要。(糸に沿って、地球とは反対側に宇宙船を滑らせると、それは遠心力で勝手に加速されます。ひもに輪っかを通した後、手に持ってを振り回すと解りやすいでしょう)

細かな数字は置きますが、ロケットとは桁がいくつも違うほど安価で、しかも簡単に宇宙に物や人を送れるようになります。しかも、これ自体が前述のようにカタパルトになりますので、宇宙開発は二重の意味で一気に進むことになります。


荒唐無稽な計画と思われるかもしれませんが、工学的には遙か昔に「何ができれば・どの問題がクリアされれば建設できるか」が明確になっている、「枯れた」話です。


そして、それら軌道エレベータの課題と、物理的工学的に見ていかに合理的な物かを詳細に解説しているのが、この本。
本当に薄い文庫本で、読むのには一時間ちょっとしかかからない所もグッド。


軌道エレベータと言うネタは、ガンダムシリーズに限らずSF作品でよく使われるガジェット。元ネタや作品中の描写の意味を理解するための副読本としても、軽くてお勧めです。


例えば、昔スクウェアがフロントミッションの続編という触れ込みで出した「ガンハザード」では、軌道エレベータが作品の背景(と、ラストステージ)で使われていました。
そのオープニングで語られる、「人類は国際協力で軌道エレベータを築き、大きなエネルギー源を手に入れた」と言う意味も、これを読めば納得できます。

また、ターンエーガンダムで出てきた「ザックトレーガー」がどう言う代物かも、これを読めばすぐ解ります。(あれは、「超音速スカイフック」という種類の軌道エレベータです)

00の後半で、私が唯一手に汗握って大興奮した軌道エレベータ崩壊シーンにしても、細かなギミックはかなりリアルに描写されています。(一方で、低軌道ステーションの描写などで、「嘘をついている」所もわかります。勿論、アニメとして見栄え優先で変えている所なので、文句を言うべきではないでしょうが)


なお、建設に向けて、日本でも社団法人の宇宙エレベータ協会と言う所が、研究情報の共有や資料集めと共に、啓蒙宣伝活動を行っています。


繰り返しますが、軌道エレベータは一見荒唐無稽に見える建造物ですが、ワープやタイムトラベルのような「遙か未来に可能になる可能性が無い事もない」ような、オーバーテクノロジーの産物ではありません。現在存在する技術から地続きに、建設可能性を語れるものです。技術的には2030年くらいには、建設開始が可能になるかもしれない、などとも言われます。(実は、政治的問題の方が遙かに大きいという説もありますが……)


とにかく、ロマンの固まりでありながら、実現可能性が非常に高い軌道エレベータ。興味を引かれた、是非ともこの本を一読してみて下さい。


楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)
楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)


今回紹介した本の中にもありますが、軌道エレベータと言う構想が一気に有名になったのは、最近亡くなった大作家、A.C.クラークが書いたこの小説がきっかけ。
彼らしく、ほんの少しだけ進んだ科学の描写を割とさらりと流し、「そのテクノロジーや計画が、世界をどう変えていくか」を淡々と描いた名著です。
内容は本当に、「軌道エレベータを作る」という、ただそれだけ。にもかかわらず、段階を踏んで計画が進んでいく様子と迫真の描写に、グイグイ引き込まれてしまいます。ベストセラーになったのも、むべなるかな。感じとしては、年代記とプロジェクトXの中間と言った感じですね。
単純に読み物としても面白いので、概説書なんざクソ喰らえと言う考えの方でも、これは別枠でお勧め。

と言うか、クラークの最高傑作だと思います。

「地に足の付いた荒唐無稽さ」とでも言うべき描写力は、本当に必見。
どうせまた絶版になるので買っておくことをお勧めしますが、図書館でも全く問題無いでしょう。私が、「読んだことがないのは人生の損失」と人に言える、数少ない本の一冊です。



ちなみに、こんな格言が思い浮かんだんですが、ま、気にしない方向で一つ。
「SFファンが『お薦めの一冊』を語り出したら、とっととその場から逃げ出した方が良い」
「その本は、彼/彼女の人生に影響を大きく変えたかもしれないが、あなたにもそうとは限らない。と言うか、ほとんどの場合そうではない」
「そもそも、それが良い影響だったかどうかは、よく考える必要がある」





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