2009年10月13日

谷川流の最高傑作 「学校を出よう!」 2巻 感想

学校を出よう!〈2〉I‐My‐Me (電撃文庫)
学校を出よう!〈2〉I‐My‐Me (電撃文庫)

ハルヒの第二期だか第1.5期だかも終わり、消失は映画という鉄板展開。一方、小説は止まったまま。と、中々微妙になってきた辺りで、この作品をプッシュしたいと思います。
と言っても、「このシリーズ」ではありません。「この世界」でもありません。「この作品」です。「この巻」です。

まあ、詳しくは後で。

なお、このレビューと言うか感想は、前に別のところで書いたものをブラッシュアップしたものです。


このシリーズは、原因不明の超能力開花現象が起きた世界を舞台にした、隔離学園ものです。WEBゲーム/TRPGの「シルバーレイン」とか、あんな感じ。超能力の描き方と言い、かなり古典的な手法で描かれています。

……と言うようなことは、この巻には何の関係もありません。忘れろ!

物語は、雨の中で正気に返った主人公が、血まみれのナイフを握りしめている事に気づく所から始まります。そして、慌てて帰宅すると、なんと自分の部屋にはもう一人の自分、異なる時間の同一存在が!
と、実に見事な導入から始まる、ガチのSF.、もといタイムファンタジー。

高畑京一郞の「タイム・リープ」なんかもそうですけど、なぜかラノベでは良作のタイムファンタジーが多いですよね。

だが、「パララバ」、お前はダメだ。オマージュの模倣をして後書きで最初の元ネタにも言及しないのは、どうしたものかと。タイム・リープの後書きで高畑京一郎が、あれだけ見事に筒井に喧嘩を売ってるのを見習うべきかと。


閑話休題、本当にこれは良くできた作品です。
時間物の命である伏線の回収もさることながら、一気に物語をたたみかけた後、そのまま叙情的なエンドロールに持って行く手腕は絶品。

ネタバレが全てをぶち壊す系統の作品なので、詳しくは書けません。が、全てのピースがあるべき所に収まり、しかも切ない余韻が最後の一文に収束する気持ちの良い痛みは、幸せな読書体験そのものです。

恐らく、ラストから逆算して話を作ったんだと思います。物語、かくあるべし。
読んだ後3日間くらいは、仕事や日常生活の集中力が失われる。そんな完成度です。これですよ、これ。現実生活に支障を及ぼさない仮想現実なんて、わざわざジャック・インする価値ないですから!

はてしない物語」の冒頭で、エンデも似たようなことを書いてましたね。


ただし、問題がありまして……
最初に戻りますが、この「シリーズ」は、はっきり言って酷いできです。主人公の行動は共感できないし、世界設定はいい加減だし、あげくにハルヒと同じく平行世界無限分岐の罠にはまって、シリーズが止まったまま。
この巻だけが、明らかに別物なのです。しかも、この巻はシリーズの本筋とはほぼ全く関係ありません。

そのため、非常に人に勧めにくいのです。
二巻以降が駄作でも、一巻が名作なら迷わず人に勧められます。ですが、出来の悪いシリーズにサンドイッチされた外伝的な二巻だけが名作って、一体何の嫌がらせでしょう?

「別の機会に書いた話を、シリーズ出せと言われて無理矢理組み込んだんだろう」とは友人の弁。私も全面的に同意します。

あとまあ、なぜかこのシリーズは、この巻を含めて、あからさまに無駄な恋愛描写が足を引っ張っているのが、なんとも。
読者の共感を呼ぶのが難しい組み合わせなのは、作者の好みの問題としても、「削れ。軸がぶれる」としか…… 物語の大きな流れと、主人公の個人的な選択(恋愛)がリンクしないというのは、読んでいて苦痛です。何より美しくない。

タイムファンタジーの最高傑作「トムは真夜中の庭で」の中に、ヒロイン(?)はハティただ一人しか出てきません。そうでなければ、ラストの美しさと切なさは、大幅に減退せざるを得ません。

……つまり、そう言う事なのです。


以下、ネタバレ考察反転↓


物語としての美しさを重視するなら、主人公はヒロインに「もう一度会いたい」という思いを抱いて進まねばなりません。出会うはずのない人間同士の出会いが切ない余韻を残すのが、タイムファンタジーの白眉です。

ところが、主人公の横には本筋に全く絡まない幼馴染がおり、人間関係は完結してしまっています。
これは、消えた妹を求めながら、どこが魅力的かサッパリわからないキャラとくっついてしまう、本編の主人公にも言えます。こういう風に、大きな流れと個人のシナリオがリンクしない仕様は、美しくありません。何よりも、意図がわかりません。

ライトノベルレーベルなので、悲恋は受けないという絶対的制約があったのかもしれません。ですが、あのとってつけたような幼馴染によって作品の魅力が上がっているかと言えば断じて否。
むしろ、幼馴染とその妹が絡むパートはシナリオ中完全に蛇足になっており、あらゆる意味で邪魔でしかありません。
これが編集のせいなのか作者の趣味なのかは解りませんが、何にせよ残念でならない所。


ネタバレここまで↑

一方、大きな流れと個人の物語がリンクしたから、ハルヒは傑作になっていたと思うのですが、続き出ませんねえ。

まあ、栗本薫と違って死んでいないし、田中芳樹と違って枯れきってもいないと思いますから、気長に待つしかないでしょう。





同じカテゴリー(読み物)の記事
 非常に面白い「娯楽」の理論書 『純粋娯楽創作理論 VOL.1』 感想 (2015-06-20 00:00)
 ナイストンデモ本!ダニエル・ドレクスラー『ゾンビ襲来』感想 (2013-02-16 22:00)
 最近読んだライトノベルの感想 (2013-01-30 22:00)
 胸がむかつくひどい話 『魔法少女育成計画 restart』 感想 (2013-01-18 22:00)
 良質ショートショート 『独創短編シリーズ 野﨑まど劇場』 感想 (2012-12-11 22:00)
 余りに出来の悪いSF 山田宗樹 『百年法』 感想 (2012-11-26 22:00)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。