2009年09月11日

傑作じゃないか…… 「ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!」 感想

ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)
ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! (ファミ通文庫)


例によって、何故かSFマガジンのリーダーズダイジェストで推されていた作品です。作者は田尾典丈。
毎回注文しようとするたびに売り切れで、手に入れるまでやけに時間がかかりました。


9/22追記 2巻の感想はこっち


さて内容は、もう題名そのまんま。
スパムメイルに返信して、好きなギャルゲーの世界に俺を!と望んだ主人公が、本当にそんな世界に放り込まれる、正当派和製ファンタジー(誤用)。
「ああっ女神さまっ」とか「デジタルアンジュ」(記憶では「デジタルアンジェ」だったのですが、どうもアンジュが正解の模様)とか、最近だとローゼンメイデンとか、あの系譜。

いやあ、久しぶりに、ラノベの主人公に大して殺意が湧きましたね。羨ましくて!
だって、ギャルゲーの世界ですよ?主人公ですよ?ゲームでは描写されない部分も、きちんと補完ですよ!?

ポイントは、最後の部分。向こう側の世界に飛ばされた後の主人公の行動が、本当に理に適っていて感心するのです。サーチエンジンでベースとなったゲームの名前を検索して、「その世界には存在しない」事を確認したり、授業の合間に教室を回って、ゲームでは描かれない日常を満喫したり。そして、「自分」と「主人公」で矛盾するはずの設定をつめるために、親戚に探りを入れたり。
ちなみに「ギャルゲヱの世界」は、元々の現実に主人公が好きなギャルゲーの世界が混ぜられた物という設定。そのため、色々と出てくる矛盾・現実との衝突が、物語の核になってきます。

例えば、「シナリオ分岐問題」。KANON辺りで散々言われた、「未攻略のキャラはどうなる?」というアレです。主人公が救えるのが一人だけという時点で、泣きゲーは限りない残酷さをプレーヤーに要求します。それが「現実」。「現実的に考えたらあり得ない」キャラに対する、悪意のある周囲の反応も然り。何より、元となったゲームは、あくまで規定された選択肢の範囲でだけ存在していた世界です。それが、主人公と現実世界と言う巨大なバタフライエフェクト発生源を取り込んで、どんどん逸脱していく……
これは、本当に見事な展開ですね。なるほど、SFマガジンで紹介されたのが解ります。
世界観や設定が大好きな私としても、この描かれ方は好みで大当たり。

ラノベはオタクのお手軽願望充足小説、と言われて久しいですが、ここまで開き直られるとむしろ喝采。スタンディングオペレーションです。
ま、そもそも、願望充足小説で何が悪い?と言うべきでしょうけどね。脳たりんの恋愛テレビドラマも、見てる人間の大部分は運動音痴のスポーツ中継も、判決が出るまでは無罪のはずの犯罪報道も、見る側の願望充足と言う面は確実にあるわけですから。


関係ない話は置くとして、本当に、文句なしにできの良いギャルゲー…… じゃない、ラノベでした。作者はゲームプランナーだそうですが、さもありなむ。メタ的な構造を昇華できるわけです。
それにしても、大きな山場は三つもあり、いずれも「ギャルゲヱの世界」が現実とリンクする際に避けられない内容。必要な素材は全て盛り込んだ、満願全席なサービス精神にうっとりです。
この辺、作者が当時やりたかった事を全てぶち込み、豪華な見せ場が三つも盛られた銀英伝の一巻(発売時は、売れ行き不良なら一巻完結の予定だった)を思い出させます。
一応続刊も出ているのですが、作者の「やりきった」感が感じ取れる、とてもスッキリするラストになっています。

本当に、大満足でした。
それにしても、三巻の発売も近いようなので喜び勇んで二巻を注文しようとしたら、また売り切れ!あんまりです!!


ところで、端々に出てくる描写を見る限り、主人公が傾倒してあの世界のベースとなったギャルゲーは、明らかに萌えしかない駄ゲーに見えるんですが、気のせいですかね?ほら、例えば(安全保障に鑑み検閲削除)あたりが良く作るような……


2巻の感想はこちら






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