2009年09月24日

メタ花盛り 『勇者と探偵のゲーム』 感想

勇者と探偵のゲーム (一迅社文庫)
勇者と探偵のゲーム (一迅社文庫)


最近、一番フィーリングが合っているのが一迅社文庫。今までも、いくつか取り上げてきましたが、今回も中々の一品。大樹連司「勇者と探偵のゲーム」です。

例によって聞いたことのない作家さんですが、「ぼくらの」ノベライズをやった人みたいですね。
正直、鬼頭莫宏描くイラストは、雰囲気が合っていないように思えますが。

さて、内容は、当世ラノベ風のねじれた「インベーダー・サマー」と言った所でしょうか。
それにしても、AMAZONに並ぶインベーダーサマーの古本が、ほとんど一円って…… 良い作品なのに。

閑話休題、内容紹介。
狂った知事が作った狂った装置によって、「勇者」と「探偵」が出没する物語世界に組み込まれてしまったある町で、「事件」に関わった高校生が残す記録、と言うものです。

理屈は全く不明なまま、毎日のように「勇者」が高次元の何とかとか宇宙からのほにゃららとか、人間の根源的有象無象などと死闘を繰り広げ、探偵が密室殺人を解決する狂った町。そして、その狂った事件が「解決」されると、それらが象徴する「日本問題」と呼ばれる何かも解決され、世界は日本に有利に書き換わる。

つまるところ、この装置のお陰で異常発展した日本で、しかし物語からは阻害されて傍観者でしかない高校生達が、そんな世界に反逆する話です。これを現実のあれやらこれやらの象徴と評したら、作者が大喜びするのは間違いなし。良くできたメタフィクションですね。

その名を授かってから十数年。ライトノベルは、暗号を解こうとするコンピュータのように、「それっぽい設定」の順列組み合わせを使い果たして来ました。それが一段落して、メタフィクションへと、一気に食指を伸ばしているのでしょう。これも、SFが辿った道に近いですねえ。
特に昨年出た「AURA」辺りから、見る機会が増えた気がします。勿論、共時性という奴でしょうが。市場が飽和した時にとんがる方向としては、王道ですしね。

何にせよ、世界からの疎外感や物語の渇望、「平凡な死」が許せないという憤りなど、とても共感しやすい内容になっています。ヴィヴァ・中二精神!

設定段階で解るとおり、ラノベの構造を使ったメタフィクションで、しかも中々良質。物語展開は最初から既定路線をなぞるわけですが、意外性で売るような内容では無いので安心して読めます。あくまで大切なのは、主人公達の行動の説得力ですから。挿入されるラノベの引用に、本気イラッとしたら楽しめた証。良くできてます。

ただ、それだけに、最後の最後で無理矢理意外性を入れようとしたのか、さらにもう一枚メタの層を重ねたのは失敗だったかもしれません。メタラノベを書ききった段階で十分一冊の本としてまとまっているのですから、徒に要素を増やす必要はなかったかと。

あとは、世界の改変が、ほとんどの場合法案の制定と言う形を取っているのが気になりました。
法律が出来たり条約が破棄されるというのは、問題の解決そのものではないはず。憲法9条の改正というのだけは懸案の解決、と言えるかもしれませんが、日教組の解散とか弾道弾迎撃法案の通過とかって、問題の解決なんでしょうか?日教組との和解(実はとっくの昔にやってるんですけど、和解……)とか、北朝鮮の核放棄確定とか、そう言う形でないとおかしいのでは?少年法の成人年齢引き下げというのも、世界を動かす改変なら「少年犯罪の激減」とかでないとおかしいはずです。
何でもありで世界を改変する理不尽の象徴のはずなのに、やる事が妙にせせこましい上に解決になって居なそうなので、気になってしょうがありませんでした。何か、日米安保も破棄してるみたいですし。


と、不満点もありますが、淡々とした怒りを抑えた文体は読みやすく、それでいて厭世的な雰囲気描写もバッチリ。理不尽な、二重の意味で「現実」を映す世界の物語を十二分に楽しめました。

次回作があったら、読んで見たいと思います。



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