2009年09月12日

本当に過去に学ぶなら… チューリング名誉回復

アラン・チューリングは、現在のコンピュータの基礎理論を築いた、天才数学者です。
「チューリング・マシン」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。
SFファンには、AIと人間を区別するための「チューリング・テスト」の考案者としても知られています。
軍事好きの人だと、有名なエニグマ暗号の解読を成し遂げた、と言う事で知っている人も多いでしょう。

その彼が、死後55年経って、ようやく名誉回復されることになりました。
55年!!

天才数学者 55年ぶり名誉回復 チューリングに英首相謝罪(東京新聞)


さて、名誉回復がされると言うことは、名誉が傷つけられていたという前提が必要です。一体どう言うことか?

彼は、同性愛者でした。
そして、1950年代のイギリスでは、これは犯罪だったのです。

別に彼が、男性を強姦したとか、セクハラを仕掛けたという話ではありません。彼が愛する対象が多数派とはずれていた。ただ、それだけで「犯罪」の構成要件が満たされたのです。

なお、これ自体が諜報機関の謀略とする説もありますが、陰謀論なので無視します。

結果、彼は女性ホルモンの投与「治療」を受けさせられ、精神のバランスを崩し、自殺してしまいます。享年41歳。科学者としては壮年と言っても良い年齢でした。

つまり、本当に信じられない話ですが、イギリス政府は、多大な功績と輝かしい前途を持っていた天才科学者を、たかが性的嗜好を理由に殺してしまったのです。
彼が生きていたらどれだけの功績を上げたのか?情報革命はどれほど早く成し遂げられたのか?それはもはや、誰にも知ることができません。

そして、そこまで愚かしい事をしておきながら、イギリス政府は55年間、彼の名誉回復を行わず放置していたのです。
私が、イギリスという国に偏見があるのは、このことが大きかったりします。


さて、こうして今回、遅ればせも良い所ですが、チューリングの名誉回復が為されました。それ自体は、喜ぶべき事でしょう。どんなに遅れた謝罪でも、やらないよりはマシなのですから。

しかし、本当に謝罪し反省し、過去に学ぶというのは、どう言うことでしょうか?
それは、同じ過ちを繰り返さないと言う事です。

過ち・愚行とはつまり、単なる性的嗜好を理由に人を犯罪者にすることで、それはチューリングの自殺という大損失で跳ね返りました。

同じ事は今、「児童ポルノ」を巡る問題で発生しています。
端的には、「児童ポルノの単純所持」で摘発にあった人達の中からは、大量の自殺者が出ています。(2004年のわずか一回の摘発作戦で、逮捕者3700人中32人が自殺)彼らは、リチャード・ドーキンスが怒りを込めて語っているように、「画像を所持していただけで、他には何の罪も犯していない善良な市民」でした。チューリングがそうだったのと同様、誰にも迷惑をかけずにひっそりと生きてきた人達です。
しかし、宗教的と言って良い摘発政策で「公共の敵」扱いされ、全ての名誉と尊敬を剥奪され、死に追いやられたのです。

結局の所、ブラウン首相がどんなきれい事を言い、仰々しい式典でチューリングのために涙を見せた所で、溜息をつくしかありません。第二第三のチューリングは今も大量に生み出されていて、イギリスの政府と国民は、そのシステムを変える気は無いのですから。


ですが、少なくともキリスト教の価値観に付き合う必要のない日本は、これを他山の石として歴史に学ぶ事が出来るはずです。
繰り返しますが、他に何の罪も犯していない人間を、性的嗜好で裁くのは間違っています。特に、人間・人材が最も重要な資源になるこの国において、魔女狩りは衰退への確定フラグとなるのですから。



先進国は、女性差別を無くそうと努力しています。何故なら、女性であることだけを理由に優秀な人材を切り捨てるのが、どれだけの損失か知っているからです。
先進国では、同性愛者の差別は公には非難されます。誰を好きになるかなど、本人の能力に比べれば些末な問題だからです。
そもそも近代化は、宗派と言う最悪の対立要因を持つ人間同士が、お互い干渉せずに共存する方法を探る過程でもありました。中世のように、価値観をむき出しにして戦争や内乱に明け暮れる国は、立ち後れるだけだったのです。

その基本さえ間違えなければ、近代国家において「何をしてはならないか」は、自ずから明らかになるでしょう。



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