2009年10月05日

ジャック・フィニィな傑作少女漫画 紺野キタ「ひみつの階段」

ひみつの階段 1 (PIANISSIMO COMICS)
ひみつの階段


私は、少年漫画よりも少女漫画が好きな少年でした。夭逝した従兄の影響もありましたが、繊細な描写力が決め手でした。

勿論少女漫画は、大きな物語や世界設定の練り込みなどは酷いです。ですが、そう言う方面の楽しさは、ライトノベル(当時はそう言う言葉はなかったですが。栗本薫とか田中芳樹とか菊地秀行とか)やSFから補給してましたから、棲み分けという奴です。

まあ、おたくと少女漫画は親和性が高いですから、珍しくもないでしょう。ときメモ以来の基本的なギャルゲーの世界観は、少女漫画準拠ですしね。

そして、多分同じパターンが多いのではないかと思うのですが、ジャック・フィニイやレイ・ブラッドベリ、フィリパ・ピアスの幻想小説も大好きでした。

過ぎ去る刹那と、積み重なった歴史と想い。過去と現在が交錯し、あり得ない出会いが心を揺さぶる。そんな物語から受けた影響が、今の私の感性を形作っていると断言できます。

と言うわけで、紺野キタ「ひみつの階段」の感想です。ただし、読んだのは全二巻の内まだ一巻だけ。ですが、続き物ではないので、この段階で書いてしまって、特に問題はないはずです。

最初に結論。

この作品、上で書いた「私が好きだったもの」の魅力を両方とも備えておりまして、気に入らないわけが無いじゃないですか!
人間は、思春期に耽溺していたものを、一生愛好し続けるんですよ。上記の文章で少しでも共感できる部分のある方なら、十二分に楽しめると想います。

以下、細かい紹介。

舞台となるのは、伝統ある女子校。その寄宿舎は、建てられてから非常に長い年月を経ており、様々な不思議を抱え込んでいる。
あるはずのない階段、居ないはずの生徒、夢を見る校舎、思いを孕んだ品物達……
そう言った、怪談にもなりかねない「すこし・ふしぎ」と学生達の関わりを描く、オムニバスの群像劇です。鉄板です。作者の描写力があれば、外れるわけがありません。

月並みな言い方ですが、思春期の心の揺れと、寄宿舎に紛れ込む少しの不思議が絡み合い、とても豊穣な空間を作り出しています。主役は個々のキャラクターではなく、彼女たちの心とたおやかな関係性。群像劇の、一方のお手本でしょう。(もう一方は、銀英伝のように、徹底的にキャラクターを立たせる方向)

なお、いわゆる百合物ではありません。むしろ、恋が「恋愛」まで発展しない重しとして、女子校を選んだきらいもあります。ブラッドベリが言う所の「肉とモラルが意味を持ち始める前の恋」(10月はたそがれの国収録、「湖」より)の方が、切なさや胸の痛くなる懐かしさは、強くなりますしね。

また、教師がポツリと漏らす時の流れについての独白や、卒業生が入学する従妹にタイを渡す時の言葉(「この子は、帰れるのね……」)など、切ないタイムファンタジーの勘所を、きちんと盛り込んでいます。
かすみ雲が薄くかかった秋の日に、サンルームで紅茶でも置いて読みたい素敵な作品です。あー、読んでる自分の姿は、画面に入れない方向でお願いします。

丁寧に作られているのは、それだけではありません。物語はほぼ全て学校と寄宿舎の内側だけで完結し、女学生と一部の教師以外原則出てこない所も、「作法」に則っています。閉じられた世界の中で、一瞬だけのきらめきを残して入れ替わっていく女学生達の群像。
細部の描き込みを意図的にぼかしてある絵も、想像力をかき立てる限界を上手く見極めています。私もあの学校の寄宿生になって、夜中に部屋を抜け出して、あの廊下を歩いてみたい!(性別は、二次元だから考慮しない方向でお願いします)


結局、こう言うタイムファンタジーは、自分に全く関わりのない空間を「懐かしい」「愛おしい」と思わせられるかで、優劣が解ります。
そして、この作品は完全に合格。素晴らしいです。
見たこともないゲイルズバーグの石畳や路面電車に、狂おしい想いを抱けるように。真夜中の19世紀で出会った女の子と彼女が属する庭園に、胸が張り裂けるような愛おしさを感じられるように。

本当にもう、ベタ誉めして悔いはありません。

それにしても、作品自体は結構古いのですね。(初出は軒並み前世紀末)こんな作者を見逃していたとは、痛恨でした。作者さんのサイトを見ると、著作の半分弱はBL系みたいなんですが、それにも手を出すべきか悩み中。
BLが怖くて少女漫画が読めるか!と言うのはその通り。ですが、いたいけな中学時代に、銀英伝のやおい同人を予備知識なしに読んでトラウマを被った経験がありまして……

ま、それはさておき、心からお勧めできる一品です。
ああ、なんで二冊まとめて注文しなかったんだろう、と今後悔している所です。



ゲイルズバーグの春を愛す ハヤカワ文庫 FT 26
ゲイルズバーグの春を愛す

もう、一々紹介するのおこがましい、タイムファンタジーの名作短編集。
でも、フィニイは長編になると、かなり質が下がると思います……



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