2009年10月25日

「嵐の中の動物園 三日月小学校理科部物語①」 感想

嵐の中の動物園 三日月小学校理科部物語(1) (角川つばさ文庫)
嵐の中の動物園 三日月小学校理科部物語(1) (角川つばさ文庫)

夏のロケット」で有名な川端裕人は、児童文学やそれに近い作品も幾つか書いています。特に、「今ここにいるぼくらは」などは、未来への希望と同時に「せちやん 星を聴く人」に近い、ほの暗い絶望が垣間見える構成が出色でした。逆に、そのものずばりの児童文学「真夜中の学校で」は、どうも作者がどう書いていいか迷っている感じで、今一つだったのですが……

というわけで、ハルヒの新装版などで揶揄される児童文学の新レーベル、角川つばさ文庫で新刊が出ると聞いて、喜んで読破しました。
つばさ文庫は、ライトノベルと児童文学の中間形態。児童文学よりもキャラクターを重視し、イラストをアニメや漫画に近づけた形です。まあ、昔からあるパターンですね。私も、同型作品を小学校の時に幾つか読んだ憶えがあります。受ける印象も、当時のそれらとそう大きく変わらず。

ちなみに、「ラノベと児童文学って、本質的には一緒じゃねえの?」とか言うと、児童文学「文壇」の人に火刑に処せられるので、思ってても口にしちゃダメだよ!山中恒は、手を叩いて喜んでくれるかも知れないけどね。

さて、この本の内容です。

往事生徒数1000人を超えながら、ゆっくりと児童数が減少する小学校。そこには、「理科部」と言う特別クラブがある。天気図が趣味な以外は普通の少年リョータ(主人公)、野球少年の翔、マイペースのお坊ちゃんケンシロー、それにリョータの幼馴染でエコ部所属の七実は、ひょんな事からこの理科部に関わってしまう。そして、彼らは、十年前の動物園へと迷い込む。そこは川の中州にあり、今正に大型台風で孤立し、危機に瀕していた。

と言う、正調のタイムスリップ物。キャラクターの特徴付けなどは典型的な児童文学で、つまりラノベと同じく解りやすくまとめられています。理科部副部長の桃園ほのかさんなど、小学生が見る小学校六年生のお姉さんの雰囲気を良く出していて、魅力的だと思います。
ちゃんと各キャラに見せ場も作ってあって、必要十分の人員でまとめた感じ。ただ、約一名かなり可哀想なことになっている子がいるのですが。(後述)

題名に「①」と入っていることからも解るとおり、物語はまだ始まったばかり。「嵐の中の動物園」の課題は達成できた物の、理科部の秘密やエコ部との確執、どう見ても怪しい先生の謎は解かれないままです。この手の児童文学は十巻くらいは平気で話を引っ張るものですが、さてどうなるか。完結しないうちに読者が三世代くらい入れ替わってしまうので、余り長くするのはどうかと思うんですけどね。

さて、基本的に良くまとまっていて楽しく読めるのですが、一つだけ気になった所があります。それは、可哀想なことになっている、幼馴染の七実さん。
どう言うことかというと、彼女にしかできない事が描写されていない上に、「痛いエコロジスト」のステレオタイプで描かれていて、1人だけ印象が悪くなっているのです。一応探偵物が好きと言うことで今後活躍の余地はあると思うのですが、エコロジスト関連の描写で、単なる理科部の噛ませ犬になりかねないのが疑問です。
あの描き方は可哀想すぎるので、エコ部と理科部の対立を、科学と環境の優先順位の問題として、処理して上げるべきだったんじゃないかと。アレじゃ、エコ部は科学的根拠を蹴飛ばす痛い集団でしかありません。

特に、七実は主要4人の内唯一の女の子。見せ場を用意してあげないと、単なる足手まといになってしまいます。男子3人のキャラが立っている事もあって、これはどうなんだろうと思う事しきり。もともと川端裕人は「男の子の物語」で傑作を描いてきた人ですが、今回欠点が際だってしまった感じ。もう一人の女子である桃園さんも、有能さは見せているのですが、見せ場はハカセ先輩の助手でしかなかったりしますし。

ただし逆を言うと、ここで感じる些細な引っかかり以外は問題なし。また、次巻以降見せ場を作って行けば良いだけなわけですから、殊更に言い立てる必要は無いのかもしれません。つまり、この巻はあくまでも、男子三人組(正確には、主人公と翔が主)のターンだったという事で済みます。

ですから、期待しつつ次巻を待ちたいと思います。話の構成もテーマの選び方も、児童文学に良くマッチしていると思います。「真夜中の学校で」に感じた迷いのような物は、見られませんでした。このレーベルが合っていたのかもしれませんね。





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