2009年10月17日

ただし、イケメンに限る! 「紅」 2巻 感想

紅―ギロチン (集英社スーパーダッシュ文庫)
紅―ギロチン


1巻の感想はこちら


中二成分が辟易するボーダーライン上だが、話としては上手くまとまっているという評価だったのが、片山憲太郎の「紅」1巻。その続刊の感想です。

例によって、今一意味もなく(物語上の必然性が、と言う意味で)治安の悪い世紀末な感じの日本を舞台に、へたれ主人公が幼女に振り回される話です。

副題は「ギロチン」ですが、このセンスの無さは何とかならなかったものか?別にギロチンが出てくるわけでもない辺り、角川辺りとの編集格差が垣間見えてしまいます。

さて、感想は一言でまとめると「あーあ」。

今回は、ネタのほとんどが容易に予想が付くチープな物の上、主人公の悪質なヘタレ方で話を引っ張るなど、シナリオラインが滅茶苦茶になっています。前巻では結構丁寧に書き込んでいたのに、どうしたんでしょうかね?
特に、イラつくことこの上ない主人公の行動については、はっきり言って最悪。護衛としてクリティカルな事・クリティカルな精神状態の時には敵が襲ってこず、最後の逆転劇も「今時それか?」というレベルのあんまりなご都合主義で、思わず目を背けたほど。こりゃあ、ダメです。

別に逆転劇も、伏線を張ってためを作り、盛り上げていけば、読者は「待ってました」と手を叩けます。ですが今回の場合、追い込まれる原因が「主人公がやる気を無くしている」という最悪の物。「いいからとっとと本気出せよバーカ」と言う感想になるのは、仕方ない所でしょう。前巻に比べて強さが増しているのも、状況と矛盾してしまっていますし。

前回の本気出した主人公 = 前回本気出して互角だった剣士 < 暗殺者 <暗殺者名刀装備 ≪今回本気出した主人公

一応、暗殺者は剣士の天敵云々の設定も語られているのですが、「何故剣士に対してだけ強いのか」が抜けているという、信じられない状態。それを描かないと、主人公が暗殺者に勝てる理由(主人公は剣士ではない)が無くなるのですが……

また、任務より殺人衝動を優先するような奴が、説明もなく任務達成のために自爆してみたり、意味不明の点も多し。そもそも派遣社員(=傭兵)が、任務優先で死ぬって時点で、色々間違っているのですが……

もっとも、ヒロインの紫と準ヒロインの幼馴染については、ラスト近辺で良い所を全てかっ攫っており、唯一の救い。あそこだけは一服の清涼剤でした。ブレのないキャラは、見ていて安心できます。
それと、地の文が鼻につくと言う評価もあるようですが、文章レベルは安定しており、スイスイ読むことができます。場面場面はきちんとまとまっていますし、十分に高水準と言って良いと思います。実際、引っかかることもなく通読できましたし。

だから、好みの問題もあるので、古本屋で買って読むなら、特にギャンブルになるような物でもないと思います。単に、シナリオ展開上の欠点で、気になる所が多すぎるだけです……


そして、かなり欠点だらけのこの巻で、もっとも唖然としたのが今回エントリーの表題にした部分。
要するに、「美少女だったら許される」式のキャラの扱いです。
自分の下らない願望のために、数十人~数百人の無関係な犠牲者をまき散らした今回のゲストヒロイン。純粋に凶人で人でなしの暗殺者。いずれも、全く訳のわからない理由で、主人公は全肯定です。

一応、主人公の感情に言い訳は用意されているのですが、説得力はゼロ。
ゲストヒロインは、行動の突端は許せるにせよ、結果として、無関係どころか恩人(こいつを生かすために働いてきた医療関係者や、命がけで守った護衛)を大量に死に至らしめてのほほんとしています。でも、主人公は彼女を全肯定。
暗殺者は、プロとしてのプライドもなく、無関係な人間を虐殺するゲロ野郎。と言うか、明らかに仕事上支障が出る(無関係の一般人をわざわざ殺して回っている)事をやるような、一番許してはいけないレベルの殺人狂。でも、主人公は彼女をゆるして飯までおごってあげちゃう。

読者は、一体どこに共感すればいいのでしょうか?後者の暗殺者なんか、それなりに親しくなっていた女性を、主人公の目の前で殺してすらいるんですが……

結局この主人公、FATEの主人公と同じく、単に独善的なだけだと思うんですよ。しかも、ご都合主義的に追い詰められるまで、本気を出さない。相手に手を出させて、正当性をゲットしてからボコるヤクザですか?

本気を出さない理由が自制であれば、まだ面白いドラマにしようもあるのですが、突き詰めれば「やる気が出ないから」と言う最悪の理由。戦士としての誇りも、プロの矜持も無く、最愛の相手についてすら気取って無駄に話をややこしくする主人公は、余りに「格好悪い」です。あげくに、「迷惑はかけられない」とか言って仲間を遠ざけるだけの、無駄なプライドだけは一人前。反吐が出ます。
いますよね、こう言うの。状況が決定的に悪くなるまで抱え込んで、周囲に被害を波及させて、なんでこんなになるまで!と言われると、「迷惑をかけたくなかった」とか言う奴。要するに、相談するだけの度胸すらない、単なる臆病者。

ラストシーンの先輩との会話が正にそれで、主人公は「自分で抱える」とか言って悦に入ってますが、単に情報を隠蔽しただけ。こいつ、前巻では先輩から散々情報提供受けて、協力までしてもらっておいて、一体何やってるんですか?報告・連絡・相談を、仲間にも味方にもしないような奴は、誰からも信用される資格はないと思います。

結局これって、良く馬鹿にされる、レディコミや一部の少女漫画と同じパターン。イケメンにレイプされて恋が始まったり、イケメンの悪役が毎回洒落にならない外道行為を働いても主人公が「キュン」となっていたり。ああ言う、「脳みそのかわりにバタークリームが詰まっている」(©ラインハルト・ミューゼル)作品群と、どこが違うんでしょうね?
ちなみに、こう言うのも、大体は無意味に治安の悪化した世界が舞台なんですね。

とまあ、とにかく酷さばかりが目立ってしまって本当に残念な一冊。「目立ってしまって」であって、酷さのみで構成されているわけではないので、投げ出すほどではないのですが……
まあ、なんにせよ、3巻上下はもう買っちゃったので、3巻までは読んで見ようと思います。繰り返しますが、読み通すのが苦痛なレベルでは決してないので。

それにしても、AMAZONのレビューが五つ星しかない、非常に気持ち悪いことになっていますが、合わなかった人間は1巻で離脱済なんだろうなあ、と思ったり。



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