2009年10月22日

テーマとの齟齬が気になる 「友達100人できるかな」


友達100人できるかな 1巻
友達100人できるかな 1巻


少し前に、あちこちで話題になっていた作品です。作者はとよ田みのる。それなりに長く活動していたようですが、ほぼ無名だったみたいです。

基本設定は、藤子不二雄の「ひとりぼっちの宇宙戦争」みたいな感じです。(あれ自体海外作品のオマージュ、と言う話はこの際置きます)

地球を侵略することにした宇宙人。でも、宇宙のルールでは、「愛」を持つ種族は知的生命として、一方的に征服してはならないことになっていた。と言うわけで、ランダム抽出で人類代表に選ばれた36歳の小学校教師(奥さんは出産直前)は、人類が愛を持つことを証明すべく、小学校時代に戻って友達を百人作るべく奔走する事に。

友達認定のためのルールが課題として上手く機能し物語を盛り上げている所に、作者の力量を感じさせます。簡単に言うと、ターゲットロックオンしてアプローチ開始。そして、ターゲットの変更は不可という物。つまり、仲良くなれるだろうと思って近づいて、失敗したら相手を変える、と言うような大人の態度は許されないわけです。

よく考えてみると、人類が愛を普遍的に持つことを示すためのテストなので、理に適っていますね。手当たり次第捕まえて、とりあえず百人の帳尻を合わせるという話にはできないわけです。

そして、懐かしい1980年代の描写と合わせ、大人の心を持つ主人公の描写が実に上手い。
はっきり言って、大人の心(しかも小学校教師!)を持つ主人公は、小賢しくてむかつく子どもになります。児童心理学の知識も、教師としての経験もある。でも、それが「友達」を作るのに役立つかというと、むしろ足を引っ張ってしまう。
特に、SF好きの少年と仲良くなろうとして苦労する話は、これが端的に表れていてドキドキしました。そして、解決法もまた見事。こうして主人公が漸進的に子どもに戻っていく事で、課題達成に近づくと共に、読者との共感も得られるという寸法です。

と、各所で言われているとおり、基本的にとても良くできた作品です。勿論、20代から30代でないと、懐かしい町並みやアイテム(主人公が大事にしている自転車の、ワクワクさせるあの姿!)に共感できないので、魅力は大きく削がれるでしょうが、些細なこと。

ですが、読んでいてずっと気になった点があり、どうにも絶賛することはできませんでした。

どこかというと、この作品が過去遡行系の時間物なのに、それを活かせているとは言い難い所です。

「過去に戻って人生をやり直す物語」は、まず変えたい過去と現在がある事が、大前提です。リプレイであれ、夏への扉(ちなみに、リンク先は最近出たばかりの新訳版)であれ、そこは変わりません。そうでなければ、過去に戻る物語上の必然性がないからです。

では、この作品はどうでしょう?
主人公は、「現在」において、幸せ一杯です。充実した仕事・綺麗な奥さん・生まれてくる子ども…… 非の打ち所のない、絵に描いたような理想の人生です。

それどころか、主人公がすれ違いを後悔していた幼馴染に見られるように、過去の友人候補達も、別に不幸になっているわけではありません。

当然物語は、「現在を守る」事が主眼になります。バック・トゥ・ザ・フューチャーの系統ですね。

ところが、この物語の中で描かれるのは、「過去を変える」という課題です。

別に、改変しなくてはならない過去など、本来どこにも存在しないのに。
主人公は、宇宙人が余計なちょっかいをかけて来たから、仕方なく過去で活動しているだけ。あくまで受け身の目標で、物語が提示するモチベーションとしては最低です。

また、パラレルワールド扱いにした事から来る、根本的な問題もあります。
主人公は過去へ戻り、当時仲良くなれなかった・すれ違って離れてしまった人々と、友情を築き直します。しかし、これは「現在」に影響を与えないことが明言されており、(パラレルワールドの扱い)主人公は、ゲームをやっているのと変わりません。勿論、ゲームをクリアしなくては幸せな「現在」に戻れません。しかし、問題はそう言う事ではないのです。
何人友達を作ろうと、その友情は泡沫の夢と消え、最終的に以前と何も変わらない、誰とも友情を築けなかった世界へ戻る事が約束されています。

つまり、個々の課題と大目標が分離しており、読んでいて違和感がどんどん強まっていくのです。


一言で言うと、こう言うことです。

「現在を変えないために過去を変えるって、どう考えても矛盾してるでしょ?」


これなら、最初に「ひどい現在」と「あり得たかもしれない幸せな現在」を見せ、課題を達成したらそちらに行ける、と言うような導入こそが相応しかったのではないでしょうか?
正直、このテーマの分離はかなり深刻で、何故誰も彼も手放しに絶賛しているのか理解できません。


と言うわけで、面白いのですが、どうにも乗り切れない・共感できない物語でした。
あと推定94話は続く話なのですが、このテーマの矛盾を解消できるかで、全体としての評価が決まると思います。






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