2009年11月04日

SFでもラノベでもない、とにかく面白い小説 「15×24」

15×24 link one せめて明日まで、と彼女は言った (集英社スーパーダッシュ文庫 し 5-1)
15×24 link one せめて明日まで、と彼女は言った


「15×24」は、「サマー/タイム/トラベラー」で見事な青春SFを描ききった、新城カズマの新作です。

レーベルが前作と違うのでアンテナから外れていて、今回1~3巻をまとめ読みしました。あれ?ライトノベルなの?と思いましたが、もともとホームグラウンドはラノベなんですね。

さて、この作品、非常に面白かったのですが、ラノベとしては非常に珍しい構成になっています。
どう言うことかと言うと、以下の一文に尽きます。

「つかみが、弱い」

はい、新人賞入門辺りで口を酸っぱくして言われる欠点ですね。実際、序盤の弱さと言うか「面白くならなそう」な感じは致命的で、驚いたものです。だって、どんなにつまらないラノベでも、編集のフォーマットのお陰か、最初の十数ページは期待を持たせるものですから。

……いや、それすら耐えられない地雷ってのも、勿論ダース単位で踏んでますけどね。

閑話休題、序盤の内容は、こう言う風にまとめられます。


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 進路に悩んだ少年「徳永準」は、せめて誰かの手助けになって死ねれば、とネット心中に付き合って自殺することを決意。しかし、相手との合流直前に携帯電話をすられ、合流困難となる。一方、携帯電話を盗んだ女子高生が書きかけの遺書を送信してしまったことから、彼の知り合いやそのまた知り合い達は、打算混じりの救出作戦を開始する。
 彼の自殺の行方は?そして、顔も見たことのない心中相手は?メールが転送され、情報が拡散する過程で本来関係ない人々を巻き込み、事件は大きく波紋を広げていく……

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ええと、面白そうに見えますでしょうか?
「街」や「428」(当BLOGに上げた感想はこちら)と言ったゲームを思い出させる群像劇・すれ違い劇の描写は、実に見事なのですが……

ちなみに、上記二作は渋谷が舞台ですが、これは主に新宿~吉祥寺までの中央線沿線が主。田園都市線やTXも少し出てきますが、あの辺のイメージが湧きやすいと、さらに楽しめます。こちらにも書かれていますが、やはり映像が浮かぶと強いです。

さて、文章手法は正に上記のゲームそのままで、平均1~2ページで主観人物がクルクル入れ替わる方式。技巧面では相変わらず極めて優秀で、破綻はほぼ無し。
各キャラの参加理由も、全員一癖あって飽きさせません。

何しろ、純粋に彼を助けようとしている人間は、ほとんどいません。善意で参加している人間も同様です。そして、両方が揃っているキャラは、恐らくいません!まあ、そんな必死になってくれる友人がいるならば、人は自殺しようとしたりはしない訳ですが……

ですが、恋愛もなく、アクションもなく、勿論萌えキャラもいません。ある重要人物の妹は完璧な美少女として描かれていますが、背景キャラですしね。いわゆるラノベ的なキャッチーさはどこにもありません。

だって、さえない医者の息子が自殺しようとしているだけ。止めようとする側も、似たようなさえない面々。勿論、「主人公に思いを寄せていた幼なじみが、彼の自殺を止めるために必死に……」と言った展開もありません。(似て非なるキャラは居ますが)
背表紙のあらすじでは、もっとも主人公の事をどうでもいいと思っているのに、情報の結節点にいたため作戦に貢献するキャラクターのパートが引用されたりしていますが、パンチ力不足は覆い隠せません。

ただし、サマー/タイム/トラベラーに見られたような嫌な衒学趣味はありませんので、文章を安心して読んでいられるのはラノベ的でしょうか?

ですが、どっちみち、ラノベをラノベたらしめるべきキャラクターが、以下のような面々でして……


・成績低下と言う全く裏のない理由で自殺を試みる主人公
・その主人公を焚き付け、「死」を観察するために動いている友人
・自分の正義と頭の良さを信じて疑わない、一番タチの悪いタイプの馬鹿(人望だけは豊富)
・アイドル好きなお金持ちのお坊ちゃん
・グラビアアイドル
・お節介が服を着て歩いているような善人
・他人には基本無関心。恋人とベッドインするために事件に首を突っ込むイケメン
・「自殺を許さない」が信念の、車いすネット少女
・主人公の財布をすった女子高生
・犯罪を犯して逃亡中の、知的障害の巨漢
・東京の東側を仕切る、昔気質な「自警団」(少年ギャング)の団長
・世間知らずなお嬢様の、妊婦
・一人主人公の遺書メールに反応しない、家族仲最低の同級生


ここに、第二巻で「設定の途中までは極めてラノベチック」な少女が加わるのですが、これは割愛。私は「そう来たか!」と膝を叩いたので、是非自分の目で確認して下さい。

まあ、どちらにせよ、余りラノベのキャラ紹介としては面白い感じになりませんね。華がありません。
また、描き分けはきちんと出来ていますし、口調や描写もずらされていて面白いのですが、それでも何人かは判別困難になっています。上で言うと、お坊ちゃんと善人とイケメンがいけません。口調も似たり寄ったりの上に名前に特徴がなく、読んでいて混乱が生じます。

せめて巻頭に人物リストを掲げるべきだと思うんですが、どうでしょう?一応各巻冒頭にイラストは載っているのですが、一行ずつの説明があるだけでも全く違うはず。これは、純粋に編集の失態かと。


  11/8追記 人物紹介ありました。詳しくは末尾の追記をご参照下さい。ええ、完全な私の見落としです。


とは言え、上に例で上げた「街」や「428」のように地味~な話なのは、実は1巻の終わりくらいまでです。
一巻のラストの段階では、「まあ、ここで終わらせるわけには行かないから、こう言う風にイベントおこすよね」みたいなゲームマスター視点になってしまうのですが、その後大転換。

2巻に入ると、巨漢が起こした傷害が実は重要な事件に関与していることが解り、主人公の自殺問題はワンオブゼムでしか無くなってきます。三巻では事態がさらに進行し、主人公はもはや「大事件に周囲を巻き込むきっかけとなった」と言う以上の意味は、持たなくなります。

登場人物の動きや外部から投げられる情報が複雑に反射して、どんどん状況が進展していくのは見事。章ごとに、様相は二転三転します。上でリンクしたBLOGの感想にもあるとおり、情報・事象のピンボールは、群像劇のキモですよね。

3巻で明かされる大ネタは、恐らく最初から出てきていたら余りにラノベ的だったのでしょうが、段階を踏んでいるため上手く中和されています。つまり読者は、主人公の自殺志願というつまらない事件を追っている内に、社会の裏に潜む地雷原に踏込んで身動きが取れなくなってしまった登場人物達に、見事シンクロできるわけです。この辺の技巧が、また読ませます。

全六巻予定だそうですが、続きが楽しみでなりません。

さて、作品の紹介としては、これ以上のことは書きません。シナリオ展開を書いてしまうと、ネタバレせざるを得なくなってしまうので。
興味を持ったなら、せめて二巻まで、読んで見る事をお勧めします。私も、読み始めた時は、こんなに物語が加速していくとは思っていませんでしたので。



11/8 追記
記事のアクセス数が増えたと思ったら、作者のtwitterからリンクされたようです。
http://sinjow.tumblr.com/post/235203345
で、内容は私の感想の誤り指摘でして……

えー、まことにすいません。確かに、人物リストが各巻頭の表紙折り返しについてました。謹んでお詫び申し上げます。

多分、ラノベの表紙折り返しに人物リストがあった試しがなかったので、そのままスルーしちゃったんだと思います。加えて、巻頭のイラスト(人物紹介になっていることが多い)に紹介文がなかったので、紹介は無い物だと思い込んでしまったようです。

と言うわけで、ちゃんと人物リストも付いてますので、これから買う方はご安心下さい。混乱なく、読み進められると思います。
より一層、お勧めですよ。




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