2009年12月30日

マイケル・ムーア「キャピタリズム」 感想

キャピタリズム~マネーは踊る プレミアム・エディション [DVD]
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帰省は、東京でしか観れないものを観るチャンスです。
それなりに名前も売れているのに、全国で2館しか公開していないという段階で、色々と察して欲しいドキュメンタリー映画。

いやあ、最初に一番大きなネタバレ(?)書いちゃいますけど、エンディングでインターナショナルを流しちゃうって時点で、もう脱帽するしかないじゃないですか。だって、これアメリカで作って、アメリカで公開してるんですよ?なのに、「インターナショナル」。妙に曲調がカントリーなのが示唆的だったりしますが、その蛮勇に乾杯。


映画で示される事実認識と主張は以下の通り。

1,サブプライムの本質は、金融機関の詐欺
2,監視・規制機関は役割を果たさず、暴走を黙認または幇助
3,原因はキャピタリズム(※)だよね
4,民衆の力で、キャピタリズムに毒されたふざけた政府をぶっ飛ばしましょう

※映画内の「キャピタリズム」は、資本主義と言うより、過度の自由主義、ロウィの言う利益集団自由主義の批判。そのまんま「資本主義」と解釈できないのがポイント。と言うか、「社会主義」の範囲がやたらと広く取られるアメリカの事情(国民皆保険も生活保護も社会主義と言われるほど、国家不信が根深い)があるため、「キャピタリズム」を逆に非常に狭い意味で用いている。


とりあえず、感想と評論については、二つの側面に分けようと思います。
つまり、「プロパガンダ」としての評価と「社会に対する提言」としての評価です。

まず、プロパガンダとしての側面。
これはもう、今までの作品と同様、非常に面白いです。主張内容を捨象して見た場合、場面の切り取り方や話の展開のさせかたが本当に巧み。レーガンを哀れな操り人形扱いしつつメリルリンチの会長をクローズアップしたり、ルーズヴェルトの第二の権利憲章を格調高く映してみたり、訴え方を心得ています。皮肉の効いたネタ映像にしても、キリストに「神聖なる」キャピタリズムの教義を言わせるシーンなど、もう圧巻。

「イエスよ、このものはずっと苦しんでいるのです」
「残念だが、持病は保険の適用外だ」

みたいな。
映像の使い方、ユーモアの効かせ方が楽しいです。もっとも、相変わらずやり過ぎの面は多く、金融機関に押しかけて「CEOを市民逮捕しに来ました」と正面玄関から入っていく所などは、正直笑えません。アメリカ人なら笑えるんでしょうか?CG合成されたブッシュが国民を脅すシーンも、ちょっと安っぽすぎて不愉快だったり。まあ、滑るネタがあるとだけの言う事ですが。

データ・数字を最小限しか出さないのはあいかわらずで、これは不満点なのですが、「数は力なり」のプロパガンダにおいては大正解でしょう。「おめえら選挙行けよ」が一番大きな主張ですから、「一番の馬鹿」に合わせて組み立てるのは基本になります。総じて、プロパガンダとしては良くできていると思います。
もっとも、既に「マイケル・ムーアの映画」と言う時点で、同じ政治的主張の人間しか見ない可能性は高いですが。

ちなみに、私が一番凄いなと思ったのは、下院議員(議場外でカメラに写る姿は、くたびれた貧相なおばちゃんです)が口角泡を飛ばして、議会で金融機関救済法案を批判するシーン。

「ここはどこだ?アメリカ議会だ。ゴールドマンサックスの重役会議じゃない。法の規制を取り払って、何も条件を付けずに国民の税金を渡す?この法案内容は何だ!?恥を知れ!」
とまあ、そんな内容です。

他の議員のもそうですが、怒りをストレートに表し、他の議員と何より国民に訴える姿は、感動的ですらあります。代弁者として仕事をし、その内容によって再就職如何(選挙結果)が決まるという、専門家の面目躍如ではないでしょうか。主張内容は別として、(実際、反対の主張をする議員達も、十分「格好良い」のです)ああ言う論戦が見られるというのは素晴らしい。まあもっとも、結局反対議員の多くが買収されたり「説得」されたりして、救済法案を再可決してしまうのですが。



さて、もう一方の社会に対する提言としての評価なのですが、これは「結論は正しいけど、色々すっ飛ばしすぎだろう」または「同意できるけど、理由は違うな」という感じです。

映画内で取り上げられた事実と対策は、幾つかあります。

事実

対策

の書式で書くと、以下のとおり。


金融機関は、国民を詐欺にかけてるよ

ちゃんと取り締まろうぜ。当たり前だろ?


でも、取締機関は連中の出張所になってるよ

ここは民主主義国家だから、ふざけた馬鹿どもは落とそうぜ。連中はそれを怖がってるよ


それ以前に、企業がやりたい放題やってて、労働者の生活は滅茶苦茶だよ

もう、命がかかる所まで行ったら、実力行使で対抗するしかないよね


そもそも、キャピタリズムってどうなのよ?

あんなもの、伝統でも何でも無いよ。合衆国憲法は、むしろ社会主義的理想主義を掲げてるよ。
だから、ファウンディング・ファーザーズ(「建国の父達」アメリカで最も重い権威を体現する)の理念に戻ろう



これらについて、私はおおむね賛成します。
3番目、実力をもった抵抗については批判もあると思うのですが、実際問題生存権がガリガリ削られている状況で、座して死ねと言っても無理でしょう。そもそも、そう言う状況(国家が国民を脅かす)時のために、市民が武装する権利は担保されてるんでしたよね?別に実力行使を賞賛するつもりはありませんが、(映画内で出てくるロックアウトは、労働組合が普通に採る戦術なので、全然アリだと思いますけど。そもそも、あの解雇通知が違法だし……)「革命の安全弁」である福祉を切ったら、そりゃ争乱も起きますよ。
そんな事は、物理現象みたいな自明の理なので、良いとか悪いとか言う以前でしょう。だからこそ、福祉とか競争規制はどんな資本主義国家でも採用されているわけで。国家の体を為してない、失敗国家は勿論別ですが。

ただし、その主張の仕方・見せ方に色々問題があるのです。
例えば、サブプライムで家を失う人は色々出てきますが、何故かその事情を語りません。(どうだまされたかとか)私としては、個々の事情なんかどうでもいいのですが、だったら何故個人にスポットを当てるのだろう、と思うわけです。最終的な執行・差し押さえ段階だけ見せれば、どんなに合法で合理的でも冷酷に見えるわけで、軸がぶれてしまいます。

なお、単に欲に目が眩んでサブプライム破綻した人間が多かったとしても、それが金融機関を弁護する理由にはなりません。ネズミ講に引っかかる人間はアホですが、それで破産する人間が大量に出たら大変なので、ネズミ講は違法でネズミ講を主催する奴は犯罪者です。それと同じ理屈で、「絶対損をしないように見える博打のコイン」を売って回る連中は、適切な規制の下に置かれるべきと言うだけの話です。

他にも、「デリバティブ」の説明を放棄していたりするのも気になります。単純化したモデルを提示すれば、要するに「複数のレースに渡って馬券をどう買うかの組み合わせに、場外の賭博屋が絡んでくる理論」だというのは、簡単に説明できると思うのですが。基本的にはゼロサムゲーム(ハイハイ。外部要因でプラスにもマイナスにもなりますよ。でも、その時点でギャンブルと言う本性の方がより深く見えてくるわけで)なわけですし。

さらに、代替としてカソリックの教義と生産管理方式が提示されるのは、なかなか趣深いですが、どうしたもんかと。
前者については、カソリックのローマを中心とする集金システムは、資本主義そのものだろうという突っ込みを入れたいですよね。勿論、プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神に対するアンチテーゼとしてカソリックが引っ張り出されるのは、歴史的には実に正しい戦略なので、面白い所なのですが。
後者については、生産管理方式が機能するためには、従業員の固い紐帯や個々人の能力に大きな差がないと言った、幾つもの条件をクリアする必要があります。後、小規模にまとまっている事。巨大な社会の中でメジャーになれる物では決してないので、ああ言う煽りはどうかと思いました。

とまあ、この辺が引っかかったわけです。しかし、ではどう言うのなら満足か、と言う批判が跳ね返りますよね。
これについては、「社会の維持が困難になるから、適切な規制レベルに戻そう」と言う話にするのが、一番広い範囲の同意を得られたのではないかと思います。

上に書いたように、生存権まで食い込むような搾取を受ければ、暴動経由革命と言う、とてもやっかいな事態が発生しかねません。少なくとも、暴動段階で十二分に大被害です。アメリカは銃社会で、その銃は建前上国家や強者を監視し、威嚇し、身を守るために持たれているのですから。(しかしまあ、考えてみると、弱者がもっとも協力に武装している国が、もっとも小さな政府=弱者救済クソ喰らえな体制と言うのは、実に興味深い事です)
そうでなくとも、映画内で出てくるエピソードで、「俺は法律を守らせるのが仕事なのに、法律からフリーハンドで金をかすめ取ってる連中の使いっ走りなんかできるか!」(大意)と言って、強制退去事務を拒否する保安官なんかが出てくるわけです。又、虫食い状に荒れていく町に業を煮やし、封鎖を打ち壊し、銀行の管理者を追い払って家を取り戻してしまう住民の話も。
ここで、明言はされませんが、実力行使に及べば暴動になりかねないという判断で警察が撤退する様子は示唆的です。

法律があっても、人民(合衆国憲法のpeople。社会主義用語じゃないよ)がその権威を認めなければ、もはや執行は不可能。(軍なり警察なりの実力をもって執行しても、見えない所で無視されていたちごっこ)行き着く先は秩序の崩壊です。と言うか、それがいやだからこそ、「大多数が反対するものは、そもそも法律にできない」民主主義という体制が、近代になって採用されて行ったわけです。そこを掘り崩せば、できあがるのは正に非効率で競争力のない社会です。そんな社会の到来を防ぐ事は、ファウンディング・ファーザーズの理念にも合致します。そこで何故、少数派であるカソリックの理念だの、社会主義の呼びかけ(まあ、これは「キャピタリズム」へのアンチテーゼなんでしょうが)が出てくるのかと。

宗教とか、反「資本主義」(あくまでもカギ括弧突きですが……)とか言う、半分電波みたいな物を持ち出されると一気に説得力を減じてしまうので、この辺はなんとかして欲しかったですね。正直、理論展開について行けませんでした。


とまあ、感想は以上の通り。とにかく、非常に「面白い」映画であった事は確かです。数人で観に行って、色々解釈を戦わせたり(どこまでが思想のコアで、どこまでがプロパガンダ用のスローガンなのかとか)すると、なお楽しめると思います。


監督のバックボーン、政治的立場、主張内容…… 「現代アメリカの一つの政治勢力」の視線というのを、良くまとまった形で見せてくれていますから。
なんだかんだ言って、日本のマスメディアは政治的主張をほとんど行いませんから、(産経が「右」で朝日が「左」?ちゃんちゃらおかしいです。あんなのは、正規分布内の誤差でしかありません)ああ言うはっきりした物言いの作品は、見ていて非常に面白いですよ。勿論、プロパガンダであると解った上で楽しむ姿勢・度量と、監督の主張との誤差が許容範囲内かが重要ですが。


最後に、パンフレットは札束を象った結構凝った物なので、手に取ってみると良いかもしれません。プレゼントキャンペーンの賞品に「宝くじ一万円分」が入っていたり、あの辺の皮肉の効かせ方はやっぱり上手いですね。



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タグ :映画社会

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