2010年02月10日

タイムファンタジー 「クロノ×セクス×コンプレックス①」感想

クロノ×セクス×コンプレックス 1 (電撃文庫 か 10-17)
クロノ×セクス×コンプレックス ①



出版業界は市場の失敗を地で行く状況でして、売上減を出版点数で補おうとする破綻前提の経済原理が幅を効かせています。ライトノベル業界も例外ではなく、良く言えば百花繚乱、悪く言えば粗製濫造、中立的に言っても粗製濫造と言う、悲しい状況です。
当然、知らない作者の作品に手を出すリスクは上がるばかり。この壁井ユカコと言う作者さんも、SFマガジンのリーダーズダイジェストで見なければ、スルー確定だったでしょう。

なので、まずは早川書房の方角を向いて頭を下げてみます。素晴らしい作品を知る機会をくれて、ありがとう!雑誌メディアが電子化されれば、紹介記事を書いたライターにアフィリエイトを連動させられたりして便利かもしれませんね。記事の信用度はがた落ちになりそうですけど……


閑話休題、壁井ユカコの「クロノ×セクス×コンプレックス」です。
内容は、気力少なめのイマドキ主人公な少年が、同い年の女の子と体が入れ替わったあげく、全寮制の魔法学校で学ぶ羽目になると言う、とってもライトノベルなライトノベルです。

無理矢理既存作品で例えると、「転校生+ハリーポッター+時を駆ける少女」でしょうか。ただ、後述しますが、作中の言及もあるとは言え、しっくり来ない感じです。
なので属性で書くと、「少女化・魔法学校・タイムファンタジー」。

美味しい要素を三つも詰め合わせ、破綻無く描ききっており、本エントリーのタイトル通りとてもお得な一品に仕上がっております。

基本的には、少女漫画の「女子校物」のノリでしょうか。派閥争い・家柄に起因する対立・階層意識、同性愛に男嫌いにイメージ戦略……
作者が女性のせいか、変に親父臭くならず、上手くファンタジーを描いて居ます。
逆方向から言うと、作者が女性にもかかわらず、上手くファンタジーを描いて居ます。

いやほら、リアルの女子校とか、アレじゃないですか。身内が割と名門の女子校とか行ってたりしましたので、知りたくもない事実はアレコレと。この作品は、汚さも嫌らしさもむきだしに(©ブルーハーツ)したりはせず、笑える範囲で留めています。

また、この女子校もののノリ(主人公が通う学校は男女共学なのですが、1巻はほぼ女子寮の中だけで完結。モブ以外の男子生徒は出ていません)と少女化を組み合わせる中で、割と王道を外した描写をしています。

主人公は、とある事情から、周囲の人気を集めるため「憧れの王子様」として振る舞う事になります。このため、彼は常に「女生徒の理想像の女生徒」と言うキャラクターを演じる事になり、単純に少女化してしまったと言うシチュエーションよりも、感情移入がしやすくなっています。「普通の女子」を演じるのは、正直死ぬほどしんどそう。ですが、「悪いけど、食事は一人で摂りたいんだ」などとアンニョイに微笑むキャラを演じるのは、結構楽しそうと思えてきませんか?
勿論これでコミカルな場面が発生する上に、自分の演技にゲンナリしながら人気を集めていく主人公への共感もまたアップ。さらには、この結果主人公は周囲の人気をかっ攫っていくのですが、いくらもてても「作ったキャラ」+「女の子としてみられている故」と言う枷がつきまとい、ストレートなハーレム物とは一線を画する事になります。
なお、これ故にヒロインとの関係が重要な意味を持つので、非常に上手い設定と言えます。いやあ、俺の妹がこんなに可愛いわけがない(当BLOGの感想はこちら)でもそうでしたが、立場上はメインヒロインになるはずの幼なじみとか、どうでも良くなってきますね!

さて、そう言った女子校・少女漫画ノリと並んで魅力的なのが、舞台と物語の主軸。つまり、魔法学校とタイムファンタジーです。

魔法学校と言っても、この学校は少し特殊で、教えるのは時間関連のみ。1巻で出てくる魔法も、「加速」と「遡行」の二つだけです。しかし、ちょっと考えればわかると思いますが、これだけで十二分にエキサイティングなイベントが起こせるわけです。
私がタイムファンタジーが大好物であるという事実をさっ引いても、今後の期待は非常に大きくなります。1巻で起きたイベントだけで、タイムリープの基本ネタは綺麗に押さえてありますしね。

1巻のメインイベントは、いくつかの偶然で主人公が巻き込まれるタイムリープ。些細な過ちを修正するために行った過去の改変が、段々と悪化していき…… と言う、鉄板の展開です。


また、時の環から外れ、主人公に警告を与える「司書」(1巻段階では主人公の未来の姿にしか思えないのですが、恐らくどんでん返しがあるでしょう)や、未だ姿を見せず(いや、「姿」はいくらでも出てますが)何らかの理由があって主人公の時代へと消えた少女(主人公の体の、本来の持ち主)など、タイムファンタジーに相応しいキャラ配置も万端。2巻以降の物語の展開が、楽しみでなりません。


欲を言うと、序盤の多少のもたつき(何故主人公が、巻き込まれた異常事態を「餅屋」であるはずの教師達に相談しないのか)が気になる所ですが、まあ許容範囲内。
後半に顕在化するタイムリープの副作用も、きちんとした理由が説明されないの気になるのですが、これは設定を小出しにしている現段階では仕方のない所でしょう。多分、物語の根幹でしょうし。


第一、そんな些末な話は、以下の呪文詠唱を読んだ段階で、どうでも良くなりますしね。

加速:
猫のピートを知ってるかい?彼が探しているものを知ってるかい?正解の扉は一つ。扉を探して、彼を夏へと導こう

遡行:
土曜日の理科実験室。割れたフラスコ。ラベンダーの香り。偽りの記憶。真実を探す少女は、真実を知ったとき、真実を失う


ああ、素晴らしい、原義とはベクトルの異なる中2病!大好きですよ、どっちもね!


と言うわけで、「届いた時点ですぐ読んでおけば良かった」と言う気持ちと、「もう少し寝かせておけば、2巻が出るまでの待ち時間が少なくて済んだのに!」と言う気持ちが同居する、とても幸せな読後感でした。おすすめです。



P.S.
きっと、名前しか出てきていない「接続」の魔法の詠唱内容は、この作品で間違いないと思います。時計も、重要な役割を果たしますしね。



その他のタイムファンタジーの感想はこちら






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