2010年02月23日

同じ作者でこうまで変わるか! 「紫色のクオリア」 感想

紫色のクオリア (うえお久光)
紫色のクオリア (うえお久光)


Steins;Gateの直後に積ん読を崩した所、内容に重なる点が多くて驚いたため、感想を書いておきます。
いやあ、共時性という名の偶然は恐ろしいですねえ。

内容は、散々あちこちでレビューされているとおり、「人間がロボットに見えてしまう」少女を中心としたSFストーリー。
聞いた時には火の鳥 復活編を想像しましたが、ポイントはかなり違っています。

まず、この能力を持つ少女(主人公は別にいます)は、単に人間がロボットに見えるだけではなく、その「本質」のような物を捉える力を持っています。例えば、陸上の才能のある人間は足にバーニアがついたように見え、天気を予測する直感に優れた人間はセンサーを背負ったように見える、と言うように。
そして、物語の主題は、人間がロボットに見えてしまう故のコミュニケーション問題(ポイントは、「鏡に映る自分と純粋な絵は、普通の人間に見える」事)と、この特殊能力の可能性について。

色々とライトな味付けはされているのですが、かなりSF寄りの物語で、ライトノベルの範疇をはみ出しかけています。勿論、そこで語られる量子論や自意識問題は「お約束」の域を出ない(と言うか、見飽きた代物)のですが、味付けが上手いのとラストの展開が見事なため、気になりません。要するに、物語のできが良い以上、一部のパーツが汎用品で済まされていても、大した問題ではないと言う事です。

ただ、以上は第一話で、第二話になるとかなり雰囲気が違ってきます。Steins;Gateに極めて近いのはこの話で、能力者の少女はすでに背景。主人公が、第一話で能力者の少女に関わった事で手に入れたある力を使って、目的を果たすためにあがき続けるという内容になります。
この話は、あまり好みでなかく、正直一話よりもクオリティで劣ると思いますが、描写はやはり水準以上。特に、「あらゆる可能性」を試す主人公のアプローチが、意図しない可能性まで掘り起こしてしまう描写など、凄みを感じさせました。

(以下一応反転)
ある世界の主人公が「同性の」「子ども」(要するに美少女)相手に”感じてしまった”恋心が、能力を介してただちに多世界に共有され、「当たり前の選択肢」として存在するようになる。
これが、ライトノベルという文法の中に最適化された「可能性走査の恐ろしさ」でなくてなんでしょう?
「無限回の試行を前提とするならば、起こりえる事は必ず起こる」と言う物理法則の表現を、これほど解りやすく鋭く描写した例は今まで見ません。この辺り、下手に長文を振り回すプロパーSFよりも、むしろ描写してみせています。

(反転以上)

正直、話を広げすぎたのではないかとも思うのですが、これはこれで完結させるなら綺麗に終わったと言えるでしょう。間違いなく、続編を作ったらグダグダになるでしょうが。確かに、SFファンが大喜びするのも理解できました。「この手のSFが好きなラノベ読者」に、最適化されたような綺麗な作品ですね。


さて、しかし実は私が一番衝撃を受けたのは、以上のような描写の巧みさや物語構成、第一話ラストの展開ではありません。

巻末に載っていた、作者の著作リストです。

だってまさか、私が近年まれに見るレベルでむかついた、悪魔のミカタの作者(うえお久光)だなんて、思わないじゃないですか!
あの作品は、私が一番大嫌いな「特に理由もペナルティもなく最強の主人公が、独善的な理屈で『敵』を蹂躙していく、最悪の厨二病小説」でした。あ、あくまでも私の好みの問題なんで、そこの所よろしくお願いします。
それが、こんなに綺麗にまとまった、安定した作品をリリースしてくるとは。登場人物の行動はどれも合理的でぶっ飛んだりしていませんし、第二部で色々と壊れてくる主人公にしても、「壊れる」課程と理屈をきちんと描写して読者を納得させています。
いや本当、読む前にあの作者の作品だと知っていたら、120%手に取らないレベルでしたよ。それが、作中全く引っかからずに読了できたわけですから、驚かざるを得ないじゃないですか。

やはり、一回読んで合わなかったからと言って、作者単位で見捨てるのは良くないんでしょうね。
とは言え、やはり一度嫌悪感を抱いた作品と同じ作者の本を買うというのは、あまりにリスキー。困ったもんです。

あーそう言えば、「前作ダメダメ、今作になったら驚きのクオリティ」(勿論主観で)と言う点まで、Steins;Gateと一緒ですね。
世の中、情報の見極めが難しすぎて、むしろそっちの方で衝撃を受けそうです。レモンもピーチも同じ値段で売られているのが出版界なわけで、そこでまさかこの前までレモンだった物がピーチに化けると、情報の非対称性ってレベルじゃなくなりますよ。
まあ、それが面白い所なんですけどね…… 悲しむべきは、ピーチがレモンに化ける事は日常茶飯事だけど、逆はレアって事ですが。



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