2010年03月09日

宇宙・青春・黒歴史/『ほうかごのロケッティア』 感想

ほうかごのロケッティア (ガガガ文庫)
ほうかごのロケッティア (ガガガ文庫)

「ROCKET BOYS」が「夏のロケット」をぶち上げて、勿論「天の光は全て星」です。
内容説明終わり!

と言うわけにも行かないので、ちゃんと説明します。

作家のやりたい放題が信条なのか、玉石混淆どころか、地雷に囲まれた砂金の採取地みたいな様相を呈しているガガガ文庫。ある意味、実にあそこらしい一冊です。
舞台は、本土から遠く離れた南の島。

その本土から流刑にされたように集まる高校生達が、色々な事情を抱えて衛星軌道投入可能なロケットの打上を目指す話です。何という王道!燃える展開!!

ところでこの設定、思わせぶりな設定が色々ありながら、宇宙開発ともロケットとも何の関係も無かった「この青空に約束を」への憂さ晴らしじゃないですかね?「ロケットの夏」を期待してガッカリしたその筋の人間は、私だけではないはず!

閑話休題、まあどの程度「それっぽい」かは、物語序盤のターニングポイントとなる、ロケット部の部室に並んでいた本を見れば一目瞭然でしょう。

以下、言及されている物。

ハインラインの「宇宙船ガリレオ号
最近再刊された、フレデリック・ブラウンの「天の光はすべて星」(老宇宙飛行士の夢と挫折と希望を描く)
前に紹介した事もある「遠い空の向こうに」の原作、「ロケットボーイズ」(ロケットを打ち上げて大学へ行こう!と言う、真っ直ぐな青春物)
五十嵐貴久「2005年のロケットボーイズ
野尻抱介「ロケットガール
川端裕人「夏のロケット」(元ロケット少年の中年達による、有人飛行プロジェクトを描く、第二の青春物)
あさりよしとお「なつのロケット」(小学生達が自力でロケットを打ち上げる、理系少年物)

そして、18禁ゲームの「ロケットの夏」(泣きたくなるほどノスタルジックな宇宙物の名作)に「星空☆ぷらねっと」(田中ロミオ山田一のギャルゲー。宇宙成分は、キャラ毎に千差万別。どう考えてもシナリオが未完なのが困りもの)。

その他の専門書については、何しろ専門書なので複数あったりAMAZONの検索に引っかからなかったりで、割愛。

同時に、部室に置いてあった、「オレンジ色のキャップと翼のついたロケット」は、モデルロケットの導入モデル、αIII(楽天に画像があります)ですね。これ、なかなか面白いアイテムですよ。主人公が言っているとおり、打ち上げると、たかが数十メートルの高度なのにもの凄く心動かされるものがあります。

モデルロケット協会の名前も出てきますよ。(まあ、実際のあの協会については、良くない話もあったりしますが……)

どの辺をターゲットにした小説かは、ご理解頂けると思います。


ちなみに、主人公達が最初にここを訪れた時に流れているのが「オネアミスの翼」で、しかも部長が例の宗教演説シーンを「これ以上は見ても面白くない」と言ってぶった切る徹底ぶり。
まあ、その筋の人に向けた書き方としてはあざとさ全開ですが、そもそも「その筋」はろくに人数も居ないはずなので、大丈夫かと心配になったり。

他にも、キューブサットの打上が困難になっている状況を「シャットダウン」と言っていたり、まあニヤニヤできる用語がばらまかれています。


ただし、これはあくまでも話の半分。残り半分は、毎度おなじみ「AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~」準拠のスクールカースト物。主人公は初期の状態では、生徒会長と組んで”ワケあり”が集まる学校を普通の学校にすべく、人間関係を操作して回る嫌な策士です。


勿論、これは打ち破られるべき日常の象徴。物語の「現実」担当で、そこで発生する問題や人間関係を使って、ロケット打上への動機付けや楽しさを盛り上げていくという寸法。

文章力はまあ普通で、細かい描写は大きく削っており、「書き込み切れていない」部分も多いですが、ジュブナイル全開のこの物語においては、むしろ相応しいでしょう。
それにしても、中盤以降~終盤へのお約束過ぎる雪崩込みや、散りばめると言うよりばらまかれたオマージュやパロディなど、作者が本当にこう言う話が好きだと伝わってくるのは非常に好感度が高いです。ああ言うエピローグが書かれているのもそうですね。ラノベの基本戦略は「一発当てたらシリーズ化してボロボロになるまでしゃぶり尽くす」ですが、あのエピローグはそれを不可能にします。しかし、アレがなければ締まらない。青春小説として片手落ちとなってしまう。作品の完成度を優先すると言う当たり前の姿勢が、真っ直ぐで眩しいです。

ロケットや関連技術の説明も、最低限はおさえつつSF特有の詳細さは大胆にかっさばく辺り、一所懸命ライトノベル・ジュブナイルとして成立させようとしているのも良いですね。


やりたい放題やって、続編も不可能という案配ですが、この雰囲気の作品をまた書いて欲しいですね。



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