2010年03月31日

『オペレーション・アーク1 セーフホールド戦記』感想

オペレーション・アーク 1 セーフホールド戦史
オペレーション・アーク 1 セーフホールド戦史

文明レベルを故意に低く抑えるため作られた「教会」の圧制下にある世界で、旧世界のテクノロジーを身に纏う主人公が、革命目指してレッツゴー。そんな話です。

まあ、超が付くほど典型的なスペースオペラ。SFじゃなくてスペースオペラ。ここ重要ですよ!(嫌なSFファン丸出しの表情で)

物語は、文明レベル(正確には、エネルギー放射量が一定以上)の存在を駆逐するバーサーカー的宇宙文明に追われた地球人が、決死の脱出を果たす所からスタート。まあ、百回くらい見た憶えのある展開です。

勿論、評価はそこからどこまで完成度の高い話を組み立てられるかと言う事になるわけですが、これがまた……

宗教家(?)の移民船団リーダーは、記憶改ざんとテクノロジーを駆使して自分たちを「天使」とする教会システムを構築。敵性文明に発見されないための手段であったはずのローテク社会は、「敵性文明襲来は、科学を弄んだ人類への罰」と考える彼によって、それ自体を目的化されていく。
これに対抗しようとした、歴史学者と軍人を中心とする反対派は粛清され、教会を中心とした社会は完成。そして、800年後。反対派が残したアンドロイド(彼らの一人の人格コピーでもある)は、失われた技術を駆使して「聖人」としてこの社会の変革を試みていく……

とまあ、こんな感じです。
で、ここまで読んできておわかりかと思いますが、まるで好意的になれない内容でして。

欠点1:主人公が万能過ぎ
主人公は惑星を覆うスパイマシンによる諜報網を持ち、通常の人間の数十倍の身体能力と不老不死の肉体を持ちます。つまり、少なくとも物語の進行内ではすべてを知り、なんでもできるため、緊迫感もへったくれもありません。

欠点2:設定を活かしていない
1とも絡むのですが、主人公はアンドロイドで、しかも女性。しかし、ボディの力で物理的に男性に変化し、人間と見分けも付きません。つまり、正体がばれる可能性と言う、最低限の制限すら課されていないのです。「ぼくのかんがえたすごくつよくてただしいしゅじんこー」みたいな?
ついでに、主人公が肩入れする王国も、関係者一同くせも何もない有能かつ善人の集団で、政治陰謀劇なのにちっとも面白くありません。小悪党とか功利主義者とかの間を縫うこともなく、タフな交渉も必要なく、信用さえられればそれでOKとか、ねえ?

欠点3:宗教の扱い方が分裂病的
この内容で、宗教そのものへの批判がないというのはすごいです。と言うか、明言はされないのですが、結局の所主人公が現体制を打倒しようとするのは、「本物ではない宗教に人々を洗脳しているから」なんですよね。何しろ、それ以外にきちんとした現体制打倒を正当化するロジックが出てきません。打倒後のグランド・デザインは、言わずもがなです。
いや、おまえが信じている(そう、なんとこの主人公、敬虔なキリスト教徒なのです!)宗教も、体制と言うか団体のために組み立てられた物でしょ?と言いたくなるわけで。
現状では教会支配体制は上手く行っていますし、社会改革を具体的にどうしたいのか見えないせいで、やっていることが宗教戦争に見えてくるのですよね。かつての政敵が「大天使」として祭られる聖堂で、主人公が賛美歌に耳を塞ぐ理由が、超常性を装う欺瞞に対してではなく、キリスト教に対する侮辱だから、と言うのも目眩がしてきます。


要するに、これは典型的な蔑称としての「スペースオペラ」なのです。登場人物は「良きアメリカ人」であり、社会状況や外的要因によって人間性のあり方まで変化するようなSFの面白さなど、最初から考えていません。
まあなんて言うか、需要は一定程度ある作風なんで、興味があれば読んで見ても良いんじゃないですかね?


ただし、こう言った作風以外の面で酷い所は、きちんと指摘しておきたいと思います。
つまり、「人名の訳が最低」と言う事。

試みに、冒頭のキャラクターリストから、神謁教会のメンバーの名を引用して見ます。
なお、宇宙艦隊のメンバーは普通の名ですが、これは冒頭しか出てきませんので。

エリィク・デェニス
マァテオ・ブラゥン
ヂェラルド・アァダムサン
ヂェイサン・クォナァ
アーヴュン・ミゥラァ
ウェリヤム・レェノ
ヂャスパー・クリュントォン
ヂェローム・ヴュンセェト
ライヤム・タァン

多分、原発音に近くしたのでしょうが、はっきり言って読みにくくて仕方ありません。あと、覚えられません。と言うか、嫌がらせですよね、これ?クトゥルフ神話の怪物名じゃないんだから。

と言うわけで、作風も訳文も相当アレな内容であり、それでも興味があればどうぞ。私は、2巻以降は遠慮させていただきたいと思います。



タグ :SF読み物

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